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女は二度決断するのblacknessfallのネタバレレビュー・内容・結末

女は二度決断する(2017年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

ドイツ、主人公のカティヤ(ドイツ人)はネオナチのカップルの爆弾テロでトルコ人の夫と息子を失う。
犯人は逮捕されるが、被告弁護士の巧みな法廷戦術で無罪になってしまう。
憤怒と絶望から犯人2人に直接復讐をしようと誓うカティヤは保釈後の2人の居場所を突き止め彼等が夫と子供にしたように爆弾を仕掛ける…

リベンジ映画の括りになるとは思うけど、これはその手の映画のカタルシスを拒否し、やるせなさや苦さを突きつけてくる映画だった。

映画の大半を占めるのは2人の容疑者の法廷劇。
これがなかなか骨太で見ごたえがあった。
単に犯行の有無だけじゃなくドイツの社会背景がそこから浮き彫りになる仕掛けで。
ネオナチ2人を偽装までして救おうとする同士の男が現れる。彼はギリシャ人なんだけど2人と同じ極右の政治結社のメンバー。この辺りにドイツだけじゃなくヨーロッパで息を吹き返してきてるネオナチの恐怖を感じる。
また、裁判では被害者のカティヤの夫のバックボーンが問題視されるシーンが。
カティヤの夫は昔麻薬の売人をやっていて逮捕された過去があり、今でも裏社会との繋がりを疑われてる。
要するに犯行は裏社会の揉め事で犯人は別にいると印象づける法廷戦術。
これは彼が悪人ってよりトルコ系クルド人なんでドイツ社会で居場所がなく裏社会に入らざるを得なかった事情を見ることができる。
現に捜査の初期段階ではクルド人だから政治的な内紛、裏社会のイザコザの線で捜査が進められていた。
犯人らしきドイツ人女性を目撃しネオナチの犯行を訴えるカティヤの証言は無視されていた。
要するに移民、しかも麻薬の売人なんてやってた人間は身内の揉め事で殺されたに違いないって偏見がドイツ警察にあったってこと。
この辺のドイツが抱える人種問題が法廷劇で浮き彫りになる演出は巧みでズシッとくるものがあった。

中身もあり時間も長いとは言え、メインはリベンジであり、何故決断が二度なのかってことなんだけど、これがさらにズシッと重い。

罪を犯しながら罰を逃れたネオナチ・カップルがレジャーを楽しむキャンピングカーを執念の追跡でカティヤは突き止める。
後は彼等が作った爆弾と同じもの(法廷記録を見てカティヤ1人で作った!)を仕掛けて車ごと吹き飛ばせば復讐は果たされる。

カティヤはキャンピングカーに爆弾を仕掛け近くの茂みに隠れる。カティヤの苦悩と辛酸を見てるから、よしっ!殺れ!と胸が高鳴った。
しかし、カティヤは殺らない。爆弾を再び取り出し茂みに戻る。何故???
ここは本当に当惑した。何のためにここまでやってきたんだ、と。

それからカティヤは現場離れ控訴を勧める弁護士と電話で話す。
やはり法廷で戦う道を選ぶのか?
しかし、カティヤはまたキャンピングカーに戻る。
そして爆弾を背負ったまま、キャンピングカーのドアを開け侵入する。
爆発音と共に大炎上するキャンピングカー。
ええっ!ってなった。まさか、自分も彼等を道連れに死ぬことを選ぶとは。

二度決断するってそういうことだったのか。
でも何で?

カティヤが何故そうしたか何も語ってはいないから、想像するしかない。
ネオナチ・カップルを自分の夫と子供と同じめにあわせて殺したいけど、奴等と同じことをして奴等と同じ下劣な人間にはなりたくないってことだったのか?

おれにはそう思えた。

あと、これ「フリッツ・ホンカ」の監督だから観たんだけど、ホンカみたいに死体やら何やら露悪的にガンガン見せるのかと思ってたら、そこはすごい抑制的で意外だった。
テーマに添った演出を選べる器用で才気のある監督だね笑
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