カタパル

ミスター・ロンリーのカタパルのレビュー・感想・評価

ミスター・ロンリー(2007年製作の映画)
4.1
すごい映画。でも、比喩が多く使われているので、疲れる映画でもあります。二時間近くの長い映画ですし。テーマは「死」です。鬱映画は苦手なんですが、これは大好きな映画です。

ハーモニー・コリン監督は19歳の時に『KIDS/キッズ』の脚本を書いてから一貫して「ファックド・アップ(どうしようもない奴ら)」の立場で映画を作ります。今回はモノマネ師です。英語の表現で"I want to be someone"「(自分ではない)誰かになりたい」は「成功したい」という意味です。今の(ダメな)自分は本当の自分ではなく、本当の自分になりたいという意味です。だから、モノマネ師という職業が「ファックド・アップ(どうしようもない奴ら)」なのではなく、誰かになりたい人たちの象徴として「ファックド・アップ」に描かれています。

パリに住むマイケル・ジャクソンのモノマネ師も「本当の自分になりたい」一人です。そのためにマイケル・ジャクソンになります。老人ホームの興行でマリリン・モンローと出会います。マリリン・モンローはスコットランドでモノマネ師のコミューンに住んでいます。似たもの同士で共同生活をしています。マイケル・ジャクソンはマリリン・モンローに誘われてパリを離れ、スコットランドのモノマネ師コミューンで生活することにするのですが。

この映画には、このモノマネ師たちのメインプロットの他に、中南米のどこかの国の教会のサブプロットがあります。この教会では貧しい人たちへの支援活動として、飛行機から食料を村に落とします。しかし、事故で一人の修道女が飛行機から落ちてしまいます。神に助けを乞う修道女。そして、奇跡が起きます。

モノマネ師のメインプロットと修道女のサブプロットは最初は関係ないように映ります。ん?なんだこれ?モノマネ師たちのコミューンは全くうまくいかない。一方で修道女たちのコミューンには奇跡が起きる。でも、結局は一緒なんです。「(自分ではない)誰かになりたい」と思っても仕方がない、だって自分は自分なんだから。それを受け入れるしかない。受け入れて、成功しようが失敗しようが、奇跡が起きようが、最後に行き着く先はみんな同じなんです。

ちなみに本作を作るきっかけがハーモニー・コリン監督が見た夢。修道女が空を飛んで踊る夢だったそうです。だから、サブプロットの方が実は先にできてたんですね。

ハーモニー・コリン監督は二作目の監督作品『ジュリアン』(1999年)でドラッグのやりすぎや資金調達で四苦八苦して精神的にやられてしまったそうです。だから三作目にあたる本作『ミスター・ロンリー』(2007年)まで随分と時間がかかりました。すごく複雑で深いテーマを扱った作品だと思うのですが、興行的には大失敗だったようです。こういう映画をまた作って欲しいですけど、当分は無理だろうなあ。