雨丘もびり

血を吸う粘土の雨丘もびりのレビュー・感想・評価

血を吸う粘土(2017年製作の映画)
4.8
...うそぉ、めっちゃ良かった(T□T)。

レイコさんかわいそう。AINA先生のイタさがリアル。
粘土の怖い見せ方を研究し尽くしててスゴい。最初に犠牲者がでるとこまで見てほしい。

【他人との差に動揺し、負の連鎖が巻き起こる】
田舎の個人美術塾に通う美大受験生たち。
東京の美大予備校で短期受講してきたカオリが帰ってきて一気にピリつく。
自分たちより巧くなってるし、視野が広がって受験に有利になってるから。

カオリが良い子なぶんツラい。
悪意なくみんなを励ましたり、東京の体験談を話してくれる。
しずかに刻まれるヒエラルキー。
ヤな子だったら、アイツムカツクって思われて終われるのに。

.....年長で1浪してるレイコさんが、かわいそうでさ。
なまじ、みんな見た目や人間スキル(気の回らなさ)が近しいから、創作技量の差が余計に目立つ。
カオリの作ったサザエをガン見。トゲの造りの細かさをガン見(実はトゲじゃなくて管。良く見てる)。
そりゃ意識しちゃうしあせる。あの歳じゃ仕方ないよ。
自分の歩を進めることに集中するしかないって、私も意識変えるのに時間かかったもん。

キズだらけなのに黙々と製作。
イヤになって辞めないのえらい、えらいよレイコさん(泣)。
「巧い人の作例を見て学ぼう」って言われて思い直し、カオリの作品に学ぼうとするの、とても勇気がいる行為。あなたは素晴らしいよ。泣ける。

も一人、闇が深いのはAINA先生。
自分が育てた学生たちより、カオリの方が巧くなってるプレッシャー。個人教室の限界を感じて荒むのがツライ。
講師の技量を、自分で疑い、生徒にも疑われるわけだから。
「私たち、どうやったら巧くなれますか?良い作品はどこで見られますか?」
「私たち、やっぱり東京に敵わないんですか?」
....AINA先生、モト東京の美術講師(激痛)。

ヒステリおこして生徒たちにあたるのは間違ってる。大人にならなきゃ。
でも、わかる。

そんな、劣等感でコンプレックスを持ってしまう人たちのドラマがとても良かった。
視線ひとつ、動作ひとつがネガティヴな意味を持ってしまう不幸。
レイコさんの顛末、ツライ(-"-;)。ちょっと忘れられないキャラクタ。

【粘土の不気味さを誠実に見せる】
で、肝心の血を吸う粘土。
CGじゃないので、粘土が本来持ってる生理的嫌悪感がすごい迫ってくる。汚いっていうか....泥だし。

私がはるか昔、陶芸体験みたいのやった時に、粘土が爪の中に入ってくる感覚がイヤだったことを思い出した。
カチカチな粘土に水分を与えてやらかくするときの、グチュグチュヌメヌメ揉むのもイヤだったな。
髪の毛がくっついちゃうと取り除くのめんどくさいのよね。
あと思い通りにならないイヤさ。ブ厚いカップができまして。
うっさいわ、どーせブキッチョですよ私は。

なんかそういう、粘土/彫像のイヤで不気味な側面を、探りつくして見せてくれるのが、誠実だなーって。
粘土で怖いものを作ってドロドロ見せるのでなく、粘土そのものの怖さ。技アリだなって思った。

【その他】
最後はちょっとよくわからなかった。置いてきたのか埋め直したのか(?_?)。
恨みを持った粘土wが、無関係な人々を襲う因果関係が無いのも残念。ホラー邦画にありがちな不条理さがあまり好きではないので。
安直な効果を狙ったグロ描写も残念。

それでも、軽い気持ちで観たら、ココロを鷲掴みにされる人間ドラマでビックリしました☆