panpie

ラッカは静かに虐殺されているのpanpieのレビュー・感想・評価

5.0
フォローしている方のレビューで知りとうとう観る事が叶った。
上映がたった2週間限定というのが解せないしパンフレットは400円だった!
安すぎる!
パンフレットの売り上げは彼等に還元されないの?
そういう形なら1000円でも買ったのに。
シリア情勢は日本で報道されるニュースで見る位なのでこのパンフレットは何も知らない私には教科書の様に読ませてもらった。


映画のタイトルになった「ラッカは静かに虐殺されている」は原題ではなく(原題は「City of Ghosts」)ISにSNSで対抗するシリアの市民で結成された集団の名称だ。
1970年から30年間ハーフィズ・アサドが実権を握り死去した後にその息子バッシャール・アサドが大統領に就任、その後に各地で〝アラブの春〟が勃発、シリアはまた不安定な情勢になる。
その頃台頭して来たISは当初はこれ程恐ろしい武装組織ではなかった様だが次第に逆らった者を見せしめに処刑する様になった。
ラッカの今を伝えなくてはと一部の市民が立ち上がり〝ラッカは静かに虐殺されている(RBSS)〟を結成しSNSで世界へラッカの惨状を訴え始める。
ISのプロパガンダも外国人に向けたものに切り替えられSNS上の〝戦争〟が始まる。
国内組は動画を命懸けで撮り国外組へ写真や動画を送りそれを世界へ発信する。
国外組も国外にいるから安心という事はなく国内にいる身内を殺された映像をアップされたりいつも居所を突き止められSNSで殺すと脅されその都度住居を転々とする。
SNS上でRBSSの誰かを殺してくれないか?という依頼が流れる。
安住の地はまだ彼等に訪れない。
不安しかない。
今はまだ。

冒頭で授賞式の記念の写真を撮るシーン、「表情が硬いから笑って」とカメラマンに言われても頑として笑わない。
当たり前だ。
普通の映画だったら賞をとったらさぞかし嬉しいだろうがRBSSにとってはこれはまだ始まりでしかなくこの受賞で更に彼等を追い詰める事になるのが分かっているから。
温度差を感じる。
しかし国際報道自由賞を取ったのは2015年なんだ。
2018年の今日本で上映されているなんて!
情報が古すぎる。
今はどうなっているんだろう。
彼等は生きているのか?
不安がよぎる。


撮影担当のハムードは国外でISに処刑された父の映像を見る。
その後兄も殺された。
そんな彼ももうすぐ父親になる。
「せめて息子の未来は守りたい。
2年後自分はいないかもしれない。
片親で苦労させたくない。 」
そして息子の誕生。
モハメドと父の名前をつける。
現状に悩みながら将来に明るい光が照らされた瞬間。
ハムードの硬かった表情に初めて笑みがこぼれる。


RBSSのスポークスマンのアジズはアサド政権を批判するデモに参加はしていたが普通の大学生だった。
いよいよISの残虐非道な行為を訴える為に立ち上がりSNSで惨状を世界に知らせ始める。
そんな勇敢な彼でもISから殺害予告されドイツ警察が保護するという申し立てにも応じず帰宅するが体の震えが止まらず落ち着く為に煙草を吸うが震えは止まらない。
こんな勇敢な彼でも震えが止まらなくて心が折れそうになるんだ。
やっと椅子に座ったままうとうとするが携帯電話を落としその音で目が覚めてしまう。
早く彼が安眠できる事を願った。


ISと言えば私達日本人で忘れられないのは2015年1月にシリアで湯川さんと後藤さんが拘束された事件だろう。
ISの要求は身代金とISの囚われている死刑囚の釈放だった。
身代金を払うと思いきや海外では身代金の要求に応えることは武装組織の活動資金の提供になるので断じて応じないという。
どうするのかとじりじりと時間が過ぎていく。
沈黙を破ってISが湯川さんを殺害し要求に応じなければ後藤さんも処刑するという映像を流す。
その後後藤さんの母親を使ってISに訴えかけるが後藤さんも処刑され帰らぬ人となった。
あの時日本ではIS報道一色でネットには公開処刑された後藤さんの映像が蔓延しそれを見たと言っていた人が結構いた。
そういう私も興味本位で見始めたが既に冒頭でギブアップし見るに堪えられなかった。
その後後藤さんを悼む声が続々と報道されていたがそのうちニュースから消えてしまった。
ISは当初〝イスラム国〟と報道されていたがあたかも独立した国の様な印象を与える為その後〝IS〟とか〝イスラミックステイト〟と報道されていた。
海外では名前が変わったかは分からないがISISとかISIL。
高遠菜穂子さんを拘束したのもマララさんに銃を向けたのもISではなかったがどうもあの頃から次々と現れる中東の武装組織に対して怖いというイメージしかない。
処刑方法が斬首って怖すぎる。
それも生きたままなんて残酷すぎる。
今作でもシリア市民が斬首されて遺体をさらされている映像が一瞬ある。
それを近くまで行って市民が取り巻いて見ている絵も不思議すぎる。
斬首と言えば映画の世界で刀で首を刎ねる武士とかフランス革命でギロチンを使って処刑とかの映像は見た事があっても(番外編だと「オーメン」でジャーナリストが車の荷台から滑り落ちて来たガラスで首を刎ねられるというのもあった!)ナイフで生きたままというのは見た事がない。
度々処刑のシーンで登場したジハーディジョンがイギリス英語を話すイギリス人と報道されたのにも驚いたし空爆で最高指導者のバグダディを殺害したというニュースもあったが真偽ははっきりせず本当のところは私達市民には何も知らされてないままだ。


武器を持たせ処刑させたり自爆の手段に子供を使うISのやり方に腹が立つ。
物資が乏しいシリアの親には買ってやれない様な高額なゲームや携帯電話、お菓子の果てまでチラつかせて入隊させるという。
ヒトラーユーゲントを思い出した。
子供にこれは正しい事なんだと思い込ませ洗脳させる。
その昔日本でも〝お国の為〟と自ら命を捨てて突っ込んで行く特攻隊も同じだったのかもしれない。
世界から孤立して経済制裁の解除の為に核を廃棄すると嘘か本当か分からないが米朝首脳会談で笑顔でトランプ大統領と握手する金正恩を〝将軍様〟と報道する北朝鮮のニュースキャスターのおばちゃんを見ていると昔の日本人もこうだったのかなぁと思ってしまう。
早く日本人拉致被害者を高齢になってしまった家族の元に返して欲しい。
おっと、脱線してしまった。(^^;;


ドイツに渡ったRBSSはベルリンで難民を排斥しようとする極右勢力のデモと激突する。
フランスでは何度もテロが連続して起き花火を楽しんでいた市民の列にトラックが突っ込んで行く映像に背筋が寒くなった。
メルケル首相が難民を受け入れたというニュースを聞いた時拍手を送りたいと思ったが世界で起きるテロを思うとやはりイスラム教徒は怖いと思ってしまう。
過激な人間も確かにいるがそれは全てのイスラム教徒ではなく分かってはいるがテロのニュースを知る度にその気持ちは揺らぐ。
誰でも自国で内戦が始まり殺されそうになったら他国へ逃げるだろう。
彼等はただシリアの現状を訴えたいだけなのに。
でも本当はどうなんだ?
分からない。
でも胸が締め付けられる。


命の危険を顧みないRBSSの勇敢に戦う姿に感銘を受けた。
戦う彼等の姿を収めた今作に点数を付けるべきではないとい思いつつもその命を賭けた行為に満点を付けたい。
ISがなくならない限りRBSSのメンバーに安心して眠れる事はないかもしれない。
バグダディが死んだとしてもまた後釜が据えられ同じ事が繰り返されるだけなのかもしれない。


製作総指揮がアレックス・ギブニーだった。
素晴らしい筈だ。
監督のマシュー・ハイネマンの「カルテルランド」も是非観たい。

私は今作は映画館で観たがAmazon Studios 製作だったのでAmazon を覗いてみたら何とプライム会員なら観る事が出来た!
今作をご覧になっていない方でプライム会員の方は是非観て欲しい。
沢山の人が観るべきドキュメンタリー作品だと思う。
panpie

panpie