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少女邂逅のマーチのレビュー・感想・評価

少女邂逅(2017年製作の映画)
4.2
【レビュー】

《現代的お伽話の最も正確な語り方》

こんないい作品があるなら誰か教えて欲しかったし、もっと話題になるべきだったと思う。

最初こそあからさまにセリフで色々と感情を語らせる説明口調な内容にうんざりしていたんだけど、恐ろしいことにこれがどんどん良くなっていくし、観客が画面に吸い込まれていくような求心力を、この映画はどんどん増幅させていく。

“蚕”がテーマになっているだけあって、全体的な照明の薄暗さや色使いがまるで繭の中にいるような不思議な感覚に誘う。

まだ大人になり切れない…というより大人になれない、あくまで“少女”から脱却できない殻(繭)の中に閉じこもったままの彼女たちのジュブナイルな心情を、ファンタジックで幻想的な描写を挟みながら秀逸(的確)に表現している。ある種サイコホラー的に危うい思春期の秘めたる過激さを感情の高鳴りに乗せて描いているのが実に上手い。そういった演出の数々が特に洗練されたものでなく、潔癖なまでに丁寧でないのもティーンエイジャーの無垢さと呼応しており、作品自体の魅力を拡張させていて素晴らしい。(←これは意図的でなく、偶然の産物なのかもしれないけど、もうそれはそれでいい。)

保紫さんが純粋で真っ直ぐな主人公のイメージを適切に演じているし、モトーラさんの本来オーラとして漂っているであろうミステリアスな部分がこの映画の配役と非常にマッチしている。

結局行きたいところに行き着けないのはいい作品の性なのかもしれない。米津玄師の歌だって常に何処にも行けていないし、西遊記だって一向に天竺に辿り着かない。最近観た『ミスター・ガラス』でさえそうなのだから、何処にも行けないことこそ芸術においては何処かに辿り着くことなのだろう。

タイトルがダブルミーニングになっているのも好き。監督自らが手掛けた編集もパキパキしていて良かったし、編集のリズムが音響との兼ね合いで相乗効果を創出しているカットもあったりなんかして印象深かった。

【追記】
後半はそうでもなくなるんだけど、前半の時点ではすごく「鶴の恩返し」を連想した。後半の内容からすれば寧ろ真逆な気がしないでもないけれど、昔話からの引用みたいなものって意外と誰もしていない気がするし、そんなところからの引用は恥じている部分があるのかもしれないけど、我々日本人はそもそも昔話から教訓を得て育ってきた側面もある訳だし、今後はどんどんそこ(昔話)に着目してストーリーを語る映像作家が増えれば面白いのにな〜と思ったりもした。

親友になる前の極めて親友に近い“最高に仲のいい友達”の段階って実は結構シビアで、アンタッチャブルな距離感を時として生み出す。それこそ『リズと青い鳥』でも描かれていたところではあるけど、実写だからなのか今作の方がなにぶんリアリティが感じられた。そんな段階を得ずに親友になる場合なんて掃いて捨てるほどあるんだろうけど、そういった段階を経た親友関係が特別なのは今作を観れば分かってもらえるかも。これは機敏で繊細な感情を持ち合わせている思春期特有のもので、それが懐かしくもあり、青くもある…そして、私はそういう部分をちゃんと描き込んでいる作品が大好きなのだ。


【映画情報】
上映時間:101分
2017年/日本
監督・脚本・編集:枝優花
出演:保紫萌花(→現在は、穂志もえか)
モトーラ世理奈
松浦祐也
松澤匠 他
概要:イジメがきっかけで声が出なくなっ
てしまったミユリ。そんなミユリの
唯一の友達は一匹の蚕だった。ミユ
リは山の中で拾ったこの蚕に「紬(ツ
ムギ)」と名付け大切に飼っていた
が、イジメっ子にその存在がバレ、
蚕を捨てられてしまう。唯一の友達
を失い絶望するミユリ。そんなある
日、ミユリの学校に亡くなった蚕と
同じ名前を持つ「富田紬」という少
女が転校してくる。
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