わたふぁ

空のハシゴ: ツァイ・グオチャンの夜空のアートのわたふぁのレビュー・感想・評価

4.0
1000年前に火薬を発明した国・中国の生まれで、“爆発”を素材として扱う現代芸術家ツァイ・グオチャン。空一面をキャンバスにしてしまうという大胆かつ壮大なアートは、瞬間的な華やかさと儚さがある。
2008年の北京五輪の“鳥の巣”から放たれた印象的な花火は彼によるもの。

上のポスター画像のように、カラフルな粉が火薬によって噴射されて空中に線や模様を浮び上がらせる。時には空に墨汁をぶちまけた水墨画のような不思議な作品もある。
ツァイ・グオチャンの作品だと誰もが一目でわかる独自性があり、どの作品も前代未聞。しかもそれが見る人を幸せな気持ちにし、夢を抱かせ、単純に楽しませるものだからすごい。

ハシゴ型の火柱が宇宙に向かって昇る“Sky Ladder(空のハシゴ)”という作品は、全長500m、気球から火薬入りのハシゴを吊って下から点火すると夜空にハシゴの火柱が伸びていく仕組み。
成功例の動画しか見たことがなかったが、1994年から20年以上取り組んできたプロジェクトだとは知らなかった。
しかも誰にも予告せずテレビ中継もNGで、観客も迎えずおこなってきた。長い年月と大金を費やし、多くの作業員をつぎ込んで、夜空に長いハシゴを架ける。
なんだか途中から「フィツカラルド」のジャングルの奥地にオペラ座を作ろうとした主人公と重なって見えた。こんなダイナミックで純粋な希望の塊のような人、現実にいるんだな。
でも自分の夢を叶えるためにひたすら邁進する夢追い人ではなく、家族思いのあたたかい人柄も垣間見ることができた。やさしい笑顔が印象的だった。

貴重な時間をドキュメンタリーに収めてくれたことに感謝。いいドキュメンタリーは意味もなく必ず泣ける。