こいつは凄いっすね。ちょっと驚愕というか脱帽というか、とんでもねぇ奴が出てきたなっていうショックを隠せなかったですね。もう面白いとか面白くないとか、技巧の巧拙とかそういうのは問題ではない。いやもちろん面白いし予算や人員のことを考えれば意味が分からないレベルで凄いことをやってると思うんですけど、この映画。
監督の堀貴秀って人はいわゆるプロの映像作家ではなく建物の内装とかアクセサリー作りとかやってた人らしいんですよ。もちろん映像制作を専門的に学んだわけでもない。そんな人がおそらく本業の片手間に世界観の設定を考えてキャラクターの内面もデザインも考えて、その世界観の中で彼らが繰り広げる物語も考えて、そしてそれをストップモーションによるアニメーションでもって101分の長編映画にしちゃったんですよ。ちなみに制作期間は7年間らしい。その7年間という時間のことをどう思いますか？ 他の人の感想では「7年もかけて作られた入魂の作品！」とか評している人も結構いたけど、俺は「え？ たった7年でこんな凄いもの作ったの？」でしたよ。たとえば記憶にも新しい『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』は『シン・ゴジラ』の後からカウントしたとしても制作期間は4年間です。それも一応本来の公開予定だった2020年6月で計算して4年間だ。新型コロナの影響で延期して実際に公開されたのはそこからさらに9か月後で、その延期期間にも作業はしていたらしいから約5年と言っても差し支えはないだろう。しかも当たり前のことだが『シン・エヴァ』はレジェンドクラスのアニメ界のトップクリエイターたちが集結して作り上げられた作品だ。それと比べて本作『JUNK HEAD』は上で書いたように素人同然の監督が1人でほとんどの作業をこなし、多いときでも10数人くらいという状況だったらしい。もちろん本作と『シン・エヴァ』のどっちが凄いかなんてことを比べるつもりはさらさらないけれど、少し想像してみると「たった7年でこれ作ったの？」という俺の驚きは理解していただけるのではないだろうか。
世の中にはちょっと読解力に欠けるなぁ、という人がいるので一応書いておきますけどね、別に本作に『シン・エヴァ』並みの映像クオリティがあるとかそういうわけではないですよ。当然それなりにしょぼいシーンもあるし同じコマ撮りのストップモーション作品としてスタジオライカの作品群と比べると映像の豪華さとして見劣りはする。でもそりゃ当然でしょあんたって話で、すげぇのは数人の素人集団、特に監督(監督というかほとんどの役職を一人でこなした)である堀貴秀が何モンだよおめぇはってレベルで尋常ではないすげぇ仕事を残したってことですよ。
そして面白いのはほとんど一人で作り上げられた作品なのでその監督の趣味や嗜好がダダ洩れになっているというのも良かったですね。
お話は多分遠未来で人類が生殖能力を失いつつあり人口が激減しているという設定。で本作の世界は地上世界と地下世界に分けられているという。人類の存続の希望が地下世界にあるというので主人公は調査員として地下に赴くが、地下は地上とは文化圏も経済圏もまったく異なる異世界で…主人公の調査はどうなるか…というお話。あと世界観的には全身サイボーグとかは当たり前で脳以外は全部機械化されてるような世界っすね。
なんかもう鉄男とかダークメサイアとかキン・ザ・ザとか銃夢とか全部ぶっこんで、そこに弐瓶勉とか林田球みたいな作風を乗っけてるっていう、いやまぁ今挙げたのは単に全部俺が好きな作品たちってだけですが、多分本作も監督が好きだったり影響を受けたものがとても生々しく表れてると思うんだけどそれらが何というか安直なパロディとかにはなっていなくて、創造力の原液とでも言えばいいんだろうか、作者のこういう世界でこういうキャラクターでこういう物語を語りたい！ という気持ちが客のハートにもダイレクトアタックで来るような感じなんですよ。なので好きなもの全部詰め込むぜって感じはするけれど、特定の作品の二番煎じって気はしない。そこもすげぇなぁと思いましたね。
あ、そういや長田悠幸のMAGARAっぽい感じもあるな。鉄や油や錆の感じが匂い立ってくるような感じとか。
割としょうもない笑いを挟み込みながらもB級なゴア描写があったり、サイボーグのボディと生の肉の質感の対比とかもあったり単純に熱い少年漫画的な展開もあったりと様々な要素があって飽きないのもいいですね。それでいて物語が進んでいくと生命の根源に触れるような神秘的な広がりも見せつけつつ終わるのでとても続きが観たくなります。
あ、そうなんですよ。本作は全3部作くらいの予定らしくてこの1本では終わらないんですよ。なので物語としては思いっきり次回に続く！ って感じで終わってるんだけどめちゃくちゃ続き観たいっすね。だから次回作に繋がるようにみんな劇場に行ってください。お願いします。
いやほんと凄い映画だったので。次回作云々を抜きにしてもおすすめはしますので。
