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累 かさねのMobydickのレビュー・感想・評価

累 かさね(2018年製作の映画)
3.7
予想以上に主人公2人がよかった。
原作とぴったりでなくてもキャラクターが作り込まれて、かつ演じきれているので、満足度が高い。唯一の難点は土屋太鳳に一目でわかる華がないとこだけど、演技力とかダンスとか飛び道具があるからまあ目をつぶりましょう。

他方浅野忠信の演技が浅い。彼の執着は本筋でなくてももっと複雑さがほしい。なんかわかりやす過ぎてなー。ニナとかさねを転がす姿に余裕がありすぎて、何が何でも淵透世の再来を見たいという切迫感がなかった。彼ならやれたのに掘り下げられなかったのか、掘り下げさせなかったのか。
若手演出家とかはもうどうでもいいや感。

もったいないのは、脚本というかエピソードの作り込み。入れ替わりによってかさねの劣等感をニナが感じるはずなのに、ニナをおそるべき高飛車人格にしたことによって劣等感というよりフラストレーションと怒りになってしまっている。顔を隠しすらしないし。怒りの影に不安はあるはずなんだけど、あまりに怒りの表出が強過ぎて不安からくる窒息しそうな劣等感がない。ニナが醜さによる劣等感を感じるような演出かエピソードがあればストーリーラインともがっちりはまってよかったのに。ニナのキャラクターをハンドリングしきれなかったのかな。脇役陣の掘り下げ含めて。

なんにしろ主演2人がかなりよかったし、脚本もよかったから、いろいろもうちょいがんばったら相当いいのになっただろうに。

あと話の内容とは関係ないけれど、かさねとニナのキャラクターの演じ分けをもう少し緩くやってもあの2人ならやれたんだろうなというシーンがいくつかあったけれど、そこを受取手の裁量に任せずに、客観的にどっちがどっちとわかるような演じ方をさせるところに発信者責任という考え方を感じた。基本的に日本は受信者責任で、見てる側聞いてる側が受け取る努力を求められるのに、こういうマーケティングされた商品というのは作り込みの過程で発信者責任というアメリカ的価値観によっていくのだなーと。でも日本人が好きなのは実は受信者側の努力を要するタイプのもののような気もして、受信者の解読努力をあらかじめ織り込んでもの作るとカルト的人気を作れそう。
もはや映画の感想ではありませんが…。
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