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ミッドナイトスワンのMobydickのネタバレレビュー・内容・結末

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

他の作品を見たことがなかったので、草薙剛は本当にいい役者なんだと初めて知りました。

トランスジェンダーという極端な設定の中で表現される苦悩や喜びは、社会の最も端にいる人も普通の人間と同じ苦しみや喜びを抱くのだと伝えてくれた気がします。

いちかは「なんで自分だけ」と一晩中咽び泣くなぎさを見て、初めて自分の苦しみを相対化できた。
絶望から目を逸らすための自傷行為を初めて止めてくれた。自分を大切にしろと叱ってくれた。大切に思ってもらえた。
とはいえそもそも母のことも好きだった。だからかつての生活は辛かったし、連れ戻されてもついていったし、中学卒業まで一緒にいることを選んだ。
でも母は娘に甘えるところがある。何もかもを娘のために投げ出す必要はないけれど、いちかの苦しみに寄り添うことがない。
でもなぎさは全てを投げ出してくれ、自分の苦しみよりもいちかの幸せを喜んでくれる。海のシーンで、寂しいとか、行かないでとか一言も言わず、いちかを世界にはばたかせる喜びを語ってくれた。

血の繋がった母ならだれもがよく似てると言ってくれる。でも血の繋がらないなぎさとは誰も似てるなんて言ってくれない。だからいちかはトレンチコートに黒いミニバッグに赤いヒールを履いて、なぎさの娘であることを主張した。

時代が違えば、なぎさは風俗嬢という設定だったのかもしれない。でもそういう設定に囚われすぎずに受け取れば、苦しむ人同士が寄り添うことで、互いの救いになれることもあるというどんな時代の人間にも通底する普遍性のある物語だったと思います。

もう考察が止まらないけれど、どの瞬間も草薙剛が本当に内面から美しかった。

あのなぎさという人物は、何の混ざりけもなく100%草薙剛の作ったものだと思うと、草薙剛というのは本当にすごい役者なんだなと思いました。
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