櫻イミト

金子文子と朴烈/朴烈(パクヨル) 植民地からのアナキストの櫻イミトのレビュー・感想・評価

3.5
関東大震災時の実話に基づいた作品。天皇暗殺未遂で死刑判決を受けた日本人・金子文子と朝鮮人・朴烈(パクヨル)の純愛歴史映画。原題は「박열(朴烈)」。英題は「Anarchist from the Colony(植民地からのアナキスト)」。韓国で235万人を動員。

韓・日の近代史を描いたセンシティブな内容であり、自分自身が史実を確認し切れていないためレビューを軽々しくはできない。雑感を箇条で記しておく。

【個人的定義】
・本質は過酷な宿命下で自由を貫いた男女の純愛青春映画。
・明治大正期に数度あった大逆(天皇暗殺)事件のひとつを初めて真正面から描いた貴重な一本。
・関東大震災時の朝鮮人大量虐殺事件に触れている点でも価値が大きい。

【感想とメモ】
・本編での金子文子による天皇制批判は全面的に同意。
・「韓国では、日本を良く描いていると怒っている人たちがいた」(金子文子役チェ・ヒソのインタビュー)
・・・現在も根強い反日感情、その上で235万人動員のヒットということは認識しておくべき。
・演出がやや漫画チックなところは気になった。主役二人は非のない反逆の英雄として、水野内務大臣はいかにも姑息な悪役として描かれていた。しかしもっと真摯に描いたらとにかく凄惨な作品になるため、この辺りが落としどころか。

【追記】
二人のことは名前しか知らなかった。若い時に大杉栄や東京ギロチン社など大正アナキストたちの本を熟読していたので、当時に観ていたら熱狂していたかもしれない。本作の題材とテーマで映画が作られたことは称賛に値する。ただ、現在の自分が心情的に乗り切れないのは、政治的な側面のある映画は情緒的に描くべきではないと考えていることによる。たとえ対象が守られるべきマイノリティであっても、過度な美化には例えば天皇崇拝と同じく偏向バランスの危うさを感じてしまう。
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