せんきち

金子文子と朴烈/朴烈(パクヨル) 植民地からのアナキストのせんきちのレビュー・感想・評価

4.0
渋谷イメージフォーラムにて。これは面白い。素晴らしい「反日」映画でありラブストーリー。


大正時代に生きたアナーキスト朴烈と金子文子の物語。


「犬ころ」という朴烈の詩に惹かれ同士かつ恋人になる金子文子。アナーキスト結社不逞社で活動するが関東大震災が発生。朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだというデマから虐殺が起きる。政府は秩序回復のため社会主義者達を無差別に検挙。その中に朴烈と金子文子はいた。2人は法廷闘争をはじめる。


重たく暗い話にみえるだろう。事実朝鮮人虐殺のシーンはえぐいし、ラストも史実通り悲惨だ。しかし、何故か爽快感がある。


それは朴烈と金子文子に悲壮感が全くないからだ。二人とももう社会に戻れない、一緒に暮らせないことを理解した上でド派手な法廷闘争を繰り広げるのだ。マスコミを前に社会の底辺にいた自分達の主張を展開していく様は爽快だ。負けると分かっていても。


何よりも金子文子を演じるチェ・ヒソの演技!ほとんど日本語ネイティブの発音に加え、日本人的発音のハングルまで披露。口も育ちも悪いが下品ではなく頭のいいフェミニストにしてアナーキストをキュートに演じる離れ技!いや凄え。もちろん、朴烈のイ・ジェフンもいいんだけどチェ・ヒソには負ける。


原題は「朴烈」だったが邦題を「金子文子と朴烈」にしたのは正しい。金子文子は朴烈はまさしく対等な関係だからだ。女性参政権もなかった頃に法廷で堂々と自説を主張する金子文子は当時どれだけ異常に見えただろうか。


内容が内容なので案の定ネトウヨが妨害運動をしてる。公開初日劇場前でもの凄くしょぼい抗議のマイクをしてた。当然映画の内容も見ずに言ってるのだろうが。



とは言え、本作は正真正銘の「反日」映画だ。韓国で言われる反日とは反大日本帝国のことであって現在の日本ではない。だから本作でど直球で主張される天皇制批判も現人神であった頃の天皇制であり、人間天皇ではない。そういう意味での「反日」映画である。朴烈と金子文子が生きていたら人間天皇をどう評価したのか気になる所ではある。

余談ではあるが大日本帝国統治下の韓国を舞台にした映画では大日本帝国以上の悪役にされるのが親日派だ。これは日本好きという意味ではなく親大日本帝国派の意味であって、そら憎まれるわなと。


また、当時の大悪役だった朴烈と金子文子を「この事件は捏造だ」と弁護した布施辰治をちゃんと描写してるのもいい。あの当時よくもちゃんと弁護したもんだと思う。『ブリッジ・オブ・スパイ』のトム・ハンクスみたいだ。


イメージフォーラムでは満席が続いてるようで嬉しい。公開規模は少ないが観るべき映画だ。
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