たつなみ

イカロスのたつなみのレビュー・感想・評価

イカロス(2017年製作の映画)
4.0
『シェイプ・オブ・ウォーター』が見事作品賞に輝いた2018年のアカデミー賞。
本作はその中で『長編ドキュメンタリー賞』を受賞した作品です。

本作はアスリートによる”ドーピング問題“について描かれていますが、途中から最近話題になったロシアのドーピング問題が発覚した事により、とんでもない展開に発展していきます。
非常にタイムリーな作品であると共に、世界の”闇“を垣間見る、恐ろしい作品であるとも言えます。
例によって長文になりますが、あらすじを下記致します。
Netflix限定ですが、興味のある方は是非!



監督のブライアン・フォーゲル氏はアマチュアの自転車レーサー。
彼はアマチュア最大の超過酷なレース、『オートルート』に自らドーピングして参加するという、実験的な企画を考えます。
しかもアンチ・ドーピング検査を完全にパス出来る方法で。

ブライアンのドーピング計画を支えるのは、ロシアの反ドーピング機関の所長を務めているグレゴリー・ロドチェンコフ氏。
陽気なロドチェンコフとブライアンは即座に意気投合し、すぐに友人関係になります。
彼はブライアンのドーピングプログラムと、ドーピング検査を確実にパスする方法を授けます。
果たしてレースの結果は…?

人体実験的に始まったこの物語ですが、途中でロシアのアスリートによる、組織的なドーピング疑惑が発覚します。
2014年にドイツの公共放送がロシア陸連によるドーピングの事実を報道しました。
そして、このロドチェンコフ氏こそがその中心人物として紹介されたのです。

ロシア側のプーチン大統領、ムトコスポーツ相らは国家の関与を否定。
ロドチェンコフ氏は研究所の所長を解任され、研究所も閉鎖されます。
それどころか、自身の命の危険にさえ晒されることになります。
いわゆる口封じです。

ブライアンは何とかロドチェンコフをアメリカに亡命させようと画策し、彼をアメリカに呼び寄せることに成功します。

アメリカに渡ったロドチェンコフは、カメラの前で次々と衝撃的な暴露発言をし、ニューヨーク・タイムズ紙の取材を受けることになリまず。

ロシアがプーチン大統領の指示によって国家ぐるみでドーピングを行なっていること。
ソチオリンピックの際、ドーピング陽性の選手の尿を陰性の尿に取り替えた具体的な手法…。
彼がロシアから持ってきたPCのデータの中には、国家が関与している事を裏付ける様々な文書が保存されていました。

これを受け、遂にWADA(世界反ドーピング機関)が調査に乗り出し、リオオリンピックでのロシア選手出場禁止を勧告することになります。

ロドチェンコフ氏は一体どうなるのか?
凄まじい緊張感を漂わせつつ、物語はエンディングを迎えます。


アスリートによるドーピングはこんなにも身近で、しかも常態化しているという事実にただただ唖然とする他ありません。
ロシアは完全否定していますが、国家規模でドーピングを行なっていることは最早周知の事実。
彼らの成績は殆ど全て造られたものということになります。

この作品を観ると、ロシアに限らず我々がよく知っているトップアスリート達は本当に努力してその能力を手に入れたのか?と、思わず疑いの目を向けてしまいます。
(当然の事ながら、パラリンピックの代表選手も例外ではありません)

平昌オリンピックで大活躍したあの選手も、感動を与えてくれたあの選手も、全てドーピングによって人工的に作り上げられた人たちだったとしたら……!?
きっとテレビ等でスポーツを観る目が変わることでしょう。

『イカロス』というタイトルの意味深さがズシーンと響いて来る作品です。