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モリーズ・ゲームのpanpieのレビュー・感想・評価

モリーズ・ゲーム(2017年製作の映画)
4.2
「女神の見えざる手」で掴まれてしまったジェシカ・チャステイン主演の実話。
今作でモリー・ブルームを演じたジェシカの次第に変身して行く様にわくわくさせられたが「女神の見えざる手」を残念ながら超えなかった。
今作では強い意思は持っているもののどんな手を使ってでも一人きりで立ち向かっていくエリザベス・スローンとは違い多少の悪に染まるも秘密を墓場まで持って行くと決めハメられたモリー・ブルームに正直ハマらなかった。
相変わらずジェシカは魅力的で素晴らしい演技をしていたと思う。
何処かで次はどんな手で出る?と私の勝手な期待値が高すぎたのかもしれない。
「女神の見えざる手」から私の頭の中にジェシカ・チャステイン=エリザベス・スローンという方程式が出来上がってしまった。
あれはそれ程ハマり役だった。
窮地を脱する為に想像も出来ない鮮やかなあの手この手を見せられた為まだどうしてもジェシカにそれをまた見たいと期待している自分がいる。
ただ今作でも引き込まれたのは事実。
今作も会話の応酬だった。


道標となる筈の小枝に躓きアスリートの道を絶たれたのが何とも皮肉だ。
怪我は治ったがもうスキーは出来ず一心不乱にスキー競技に打ち込んだモリーにはスキーを辞めたら何も残っていなかった。
父親への反抗もあったがきっとそこから逃げ出したかったのだと思う。
目指すロースクールへ行く前にロスで今迄スキー一色だった人生を忘れ楽しむ為に一年間休暇を取る。
クラブのウェイトレスを始めるが元々頭が良いので彼女は目立った。
そしてディーン・キースの目に留まり雑用係のバイトを始める事になる。
クラブのウェイトレス姿もなかなか似合っていたが服装や化粧まで変身を遂げるモリーに女性なら憧れの気持ちを抱く筈だ。
変身は外見だけでなくモリーは有名人の集まるポーカーゲームのアシスタントを務めながらパソコンで売上も管理しそこに集まる有名人と人脈を築いて行く。
スキー選手から望んでいなかった思わぬ転身をしたがポーカーの面白さに虜になっていくモリー。
キースがモリーをクビにしたのはおそらく彼女に危機感を持ったからだ。
機は熟した。
自由になったモリーは水面下でディーンの顧客へメールを送り遂に温めてきた〝モリーズルーム〟をオープンさせる。
ここまで破竹の勢いで成功を掴んだモリーのやり方に舌を巻く。
エリザベス・スローンを彷彿とさせた。
掴まれていた。
そして冒頭のFBIに踏み込まれあっという間の逮捕の場面に繋がっていく。

モリーはずっとアスリートとして生きてきて勝負の世界に生きてきたから勝つ事が全てで競技をリタイアしても彼女の身体や心や頭に叩き込まれていた筈だ。
ポーカーの世界に再びそれを見つけたモリーがどっぷりと深みにハマっていくのは納得で自然だった。
お金儲けよりも勝つ事に魅入られていたのかもしれない。

観た後過去の回想と弁護士のチャーリー・ジャフィーとの出会いやFBIあるあるや裁判の行方などちょっと見所や展開が早過ぎててんこ盛りなイメージを持ってしまったが今思うと過去のポーカーのシーンと現在の裁判やジャフィーとのやりとりは構成を変えていて全体にテンポも良く2時間20分眠気が訪れることもなく私が引き込まれていたのは事実。
ただポーカーゲームに集まったメンバーを暴露本で何人かはバラした事を後悔していて他にも山といる顧客はたとえ自分が有罪になっても絶対に口を割らないと頑ななモリーに司法取引があるのに何故そこまでして守ろうとしているのかと最後の最後に共感しきれなかった。
原作にゲームに参加していた大物達の名前が書かれているそうでちょっと興味が湧く。


私が思わず涙を誘われたのはスケートリンクでアスリートの血が騒ぎ警備員との追っかけっこ(なかなかどうしてアスリートを彷彿とさせるジェシカのスケートはかっこよかった!)の後で父親と話すシーンが一番良かった。
父親役はケヴィン・コスナー。
登場人物が多くガチャガチャしがちな映画全体を引き締めていたと思う。
心理学教授の父親と子供の頃から反りが合わず父親に必ずたてつく思春期のモリーに父が何故それ程までに冷たく言い放つのか分かったシーンに涙が溢れた。
モリーに知られてはならない事を知られそれを気にして大人らしからぬ言動を取っていたのは父親の方だった。
娘がポーカーに走ったのは自分のせいだと謝罪するシーンは涙が止まらなかった。
子供心に父親を軽蔑していても大好きな父に認められたいのに暖かい目も言葉も掛けてもらえず勝つ事しか父に評価されないモリーの勝利への執念を見た。
人は遺伝的に持って生まれたものよりも案外家族との関わりの中で性格が育まれ形成されて行くのかもしれない。
お父さん子だった私はここでモリーに激しく共感した。
妹を溺愛していた様に見えた私の父に褒められたくてお利口さんを演じていた時があった事を思い出させた。

ポーカーで大金を賭けて負け人生を台無しにしてしまったハーランや儲け話を蹴ったからと掌を返しモリーに報復したミスターXなど前半に登場するポーカーゲームに関わる人達やゴシップ記事で取り沙汰されているモリーではなく彼女の真の姿を知り親身になって尽くそうとする弁護士ジャフィーを演じたイドリ・エルバがとても良かった。


人生は予期せぬ方向へ進むがモリーの数奇な運命に驚きを隠せない。
モーグルとポーカーでは全く畑が違うと思ったがどちらも真剣勝負の世界である事に違いはなくそこに奇しくも辿り着いたモリーは必然だったと言える。
ジェシカの声が好きだ。
「女神の見えざる手」を超えなかったが強い女性のイメージがついてしまったジェシカ・チャステインに憧れつつ次回作も彼女にエリザベス・スローンを探しながら観るのだろうなぁ。
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