月うさぎ

ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男の月うさぎのレビュー・感想・評価

3.2
俳優さんはよくやった!
でも、この映画、面白い?
私はそんなに面白く感じなかったのでした。
だって本物のテニスの名試合には敵わない…

残されている当時の映像は現在の撮影テクニックと画質に比べようもない。今、ボルグとマッケンローの試合を過去の映像で確認しても、あまりドラマティックに見えないでしょう。
だからこそドラマでの試合シーンの再現に期待したのだけれど。

役者の演技はちゃんとボルグらしく、マッケンローらしく見えました。試合もそれらしく見えました。プレースタイル、試合展開、ラケットはウッドだし、ボールも白いし、ウェアのデザインも再現。(ブランドロゴは無くしてましたね。フィラとタッキーニなのに)
でも、肝心な所が映ってないじゃん。
ラケットがボールを捉えた瞬間、コートのラインに落ちるよう狙いすましたダウンザラインのショット、鮮やかなボレーテクニック、意表をつくパッシングショット…
が、よく見えないストレス。
…どころか、ラケットがボールを叩いているクローズアップ自体ないんですけど💦
試合シーンに全然臨場感が感じられなくて、残念。

なぜなら、私たちはロジャー・フェデラーとラファエル・ナダルを知ってしまったから。
彼らのプレー・スタイルの多彩さとスローモーションも含めて、多様なアングルから撮影された「生の試合」
そこにはアニメもビックリな波乱の展開やミラクルなショット。
スピードと滴り落ちる汗と声がある。
映画以上の興奮がライブの彼らの試合の方に感じられるのです。

一応擁護すると、この映画では選手の心理を描く事を目的としています。そもそもが試合の再現メインじゃないんですね。
トップに登り詰めた王者のプレッシャー。
負けることへの恐怖と不安。
周りから常に注目され「貴公子」であることを期命を待されるマスコミからの圧力がどれほど彼の心を蝕んでいるのか。
それらに追い詰められるボルグの心の葛藤がこれでもかという位、映像で描かれます。
一方のマッケンローは「悪童」とあだ名される完璧なヒール。
でも二人には共通点もあり、命をかけて闘った者同士だけに通じる互いへの理解と尊敬が生まれる。

それは確かにその通り。事実。

マッケンロー役のラブーフも「その人のことを本当に理解できるのは、ネットの向こうにいる人だけ」と語っていました。

でも二人の天才の孤高の苦しみと邂逅と友情の始まりという感動がカタルシスを与えるかというとそうでもなくて。
結局悩める帝王ボルグが主人公なのね。

ひたすらボルグが悶々と悩んでます。
冷静と信じられていた彼の少年時代の荒れ狂った様や、身近な人たちへのわがままが、映画のほぼ4分の3です。
マッケンローの生い立ちはさほど描かれず、ボルグに憧れる少年時代が見られる程度。
マッケンローはボルグの引き立て役ですか?
いやいや彼のファンは多かったし、今でも解説者としてもユニークで彼のユーモア溢れるトークを楽しみにしているファンは多いですよ。
彼には友達がいないかのように描かれていますが、ダブルスでも世界ランキング1位になっています。彼はチームプレーも得意なんですよ!
訴えたいテーマが「トップアスリートの孤独」だからなんだろーけど、この映画のボルグとマッケンローの扱いの格差に正直違和感でした。かなり実像と違うと思う。

俳優さんですが、ボルグ役も似てましたが、ラブーフのキャスティングはさらにハマっていましたね。
本人は左利きではないそうですが、役者さんってすごいな、とまたも思わせてくれました。
ボルグ本人の息子のレオ・ボルグが演じているのも良かった!

それでもですよ。
フェデラーとナダル、そしてジョコビッチの3人のそれぞれの生い立ちとテニスへの真摯な姿勢と際立つ個性と、全く異なるプレースタイルを、完全に見せてくれるドキュメンタリーがあれば、その方が凄いドラマになりますよ。
本当、あの人たち、どこをとっても普通じゃないですから。

ちなみに私はラファエル・ナダルの大ファンです。
彼ほど人として愛されているテニスプレイヤーはいません。コートの上と外での彼のギャップがまた魅力です。
ロジャーとラファの友情もボルグとマッケンローの友情に被るものがありますね。
絶対王者のウィンブルドン6連覇を阻んだライバルだってところも共通なんですね。
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