逃げるし恥だし役立たず

大頭脳の逃げるし恥だし役立たずのレビュー・感想・評価

大頭脳(1968年製作の映画)
4.0
"大頭脳"と呼ばれる天才的犯罪者ブレイン(デヴィッド・ニーヴン)が再び列車強盗に挑むが、同じ獲物を脱獄した二人の男達アナトール(アンドレ・ブールビル)とアルトゥール(ジャン=ポール・ベルモンド)が狙っていた。NATOの軍事資金を巡って悪党たちが争奪戦を繰り広げる。『大進撃』のジェラール・ウーリー監督が人気俳優ジャン=ポール・ベルモンドを主演に迎えた、イギリスで実際に起きた大列車強盗事件を背景にした軽いタッチのピカレスク・コメディ。
タクシーの運転手アナトール(アンドレ・ブールビル)は相棒アルトゥール(ジャン=ポール・ベルモンド)を刑期満了の四日前に脱獄させて、フランスのNATO離脱に伴いパリからブリュッセルへ輸送される1,200万ドルの運営資金を強奪する計画を企てる。しかし、過去にグラスゴーとロンドン間の列車強盗を指導した“大頭脳”と呼ばれる伝説の怪盗ブレイン(デビッド・ニーブン) も其の資金を狙っており、シシリアのマフィアのスキャナピエコ(イーライ・ウォラック)の出資と協力を得て完璧な現金奪取計画を練っていた。やがてスキャナピエコは美しい妹のソフィア(シルヴィア・モンティ)のブレインへの恋心からの嫉妬心も手伝ってブレインを裏切り、大金を巡る三つ巴の争奪戦が、パリからベルギー、ロンドンからシシリーを通ってニューヨークまで繰り広げられていく…
同年に撮影されたパロディ映画『007 カジノロワイヤル』の撮影のために集結していたデヴィッド・ニーヴンとジャン・ポール・ベルモンドの豪華共演、仏ゴーモン社と伊ディノ・デ・ラウレンティスプロダクションと米パラマウント社の共同出資の映画から仏・英・米・伊と国際色豊かなシチュエーション、豪華客船や自由の女神のレプリカ像も登場して、60年代フランス映画のポップ・センスと時代を反映したカメラのアナログな御洒落さと、同じく時代を匂わせるコメディセンスは序盤こそノスタルジーを喚起するも、やがてフランス映画特有の不自然さが漂い、少し醒めてしまう。其れでも、或る意味知的なゲームの様な軽妙なストーリー展開、テンポ良く展開されるアクションの連続性が観る者を惹きつけて、薄っぺらい構成が逆にギャグの価値や其の娯楽性を高めている。
クレバーなイギリス人と遠慮近憂のフランス人と短絡的なイタリア人との奮闘に描かれる国民性の対比や、イギリスとフランスの対立によるNATO離脱の矛先がラストでアメリカに向かうと云う歴史的な背景が意外にも下味として効きており、天才だが何処か抜けていて脳ミソの重さで時々首が曲がってしまう“大頭脳”にデヴィッド・ニーヴン達の魅力的なキャラクター、小道具や設定も意外に緻密で丁寧で映画としての水準は高い。兎に角、ポップそしてスタイリッシュな演出、ジャン=ポール・ベルモンドのキレのあるアクション、半世紀以上経つ作品だが、昔の映画人のクレバーさと魂が感じられる。
ヌーベルバーグの文脈で語られることが多いのだが、個人的にはジャン=ポール・ベルモンドの神髄は数々の巨匠たちと組んだアクションとコメディの中にこそ開花する!