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判決、ふたつの希望のadagietteのレビュー・感想・評価

判決、ふたつの希望(2017年製作の映画)
4.5
原題は L'insulte
レバノン(というよりベイルート地域?)はフランス統治下にあった歴史があるんですね。ともかく、英語だと The Insult "侮辱”

日常の些細な揉め事。
相手がパレスチナ難民だから というだけで意固地になり 事態を悪化させてしまうレバノン人の男。彼は日頃から、レバノン軍団という武闘派右翼政党の熱心な支持者である。
かたや高度な教育を受けたインテリでありながら苦難の人生を歩むパレスチナの男も、その出自ゆえに受ける侮辱には感情的になってしまう。

レバノン男に侮辱された パレスチナ男が カッとなって殴りかかり肋骨を折る重傷を負わせてしまい、レバノン男は訴訟を起こす。
話が不利に展開しはじめたレバノン男は法廷にまでひどい言葉を投げつける。
かなりヤバイ ごちごちのヘイト。奥さんは若くて美人で、真っ当なバランス感覚を持っているのに、彼女の言葉に耳を傾ける気も全くない。

そこに政治が絡んでくる。
控訴審にどういうわけか有名弁護士事務所が乗り出してくる。
パレスチナ男の方にも、人権弁護士が売り込んでくる。
裁判が進むにつれて、場外乱闘も発生し、メディアの注目度も格段に高くなる。
このあたりの、法律家の描き方=揉め事をおさめることよりも、勝つことを目的にしている強欲な連中、彼らのせいでおさまるものもおさまらない=
という感覚は欧米の作品にはない要素、ぐっと親近感を覚えてしまう(笑)

案の定(?)レバノン男側についた弁護士は、ゴチゴチのシオニスト。パレスチナ憎し! あいつら、自分たちの悲惨さをタテにはするが、自分らだってひどいことやってるじゃないか!と。。 (((いやいやいや、それユダヤ人も一緒だから ))) といささか気分が悪くなってくる。

どうおさめるのか?判決が出ても揉めるやつ?と思いきや、レバノン男側のショッキングな過去が突然白日のもとにさらされる。
ダムール襲撃。
悲惨なテロの被害者。

レバノン男のヘイトの根源を知った パレスチナ男は 熟慮のすえ レバノン男のもとへ 謝罪を届けに行く。かなり込み入った複雑なパッケージ。
たぶん、レバノン男も心底理解したのだろう。
パレスチナ男がどれほど傷ついたかを ...........

両者とも腕の良い技術者で、まともな仕事のためなら客に嫌なこともちゃんと言う、ある意味似たもの同士だ。
その描写がところどころに挟まれ、荒れる中盤でもエンディングへの道標になっている。
思慮深い良い映画だ。

しかしパレスチナ人というのはアラブ社会でも疎まれる? 
このレバノン軍団はキリスト教系、レバノンはキリスト教徒が多いらしい。
中東事情の複雑さは到底理解できるものではない。
当事者たちもどれくらい俯瞰して把握されているのだろうか?
正直、知らん事だらけで、これ書く前に記事読んだほど。
https://www.newsweekjapan.jp/ooba/2018/08/post-56_2.php
https://allabout.co.jp/gm/gc/293575/

ただ、そのへんの基礎知識がなくても、この作品が普遍性をもって描き出していることは伝わって来る。
ヘイトの根っこにあるものは何か?を考えないと ヘイト問題には向き合えない。彼らにもまた、理由がある と ........
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