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夜明けのすべてのadagietteのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.5
原作を読んだのがちょうど1年前。
瀬尾まいこ氏が 自らがパニック障害になったことをベースにして書いた作品で、もと文藝春秋の編集をされていた篠原一郎氏が作った 水鈴社という新しい出版社から出されている。

PMSは想像に難くないが、パニック障害とはどういうものか?名称はよく耳にするものの、初めて知る病の症状にかなり衝撃を受けた。

これらの病状を映画はどう描くのか?
藤沢さんのPMSは八つ当たりするシーンも多く辛さがしっかり表現されていたと思う。
一方 パニック障害のほうは、予備知識も手伝ってだろう、本を読んだ時ほどの鮮烈さはなかった。
山添くんが周囲に病気のことを明かしていない、からだろうけれど できればモノローグでも自身の状態をもっと克明に語ってほしかった。

また、物語の最後が 環境が変わっていくものに変更されていたことが "治癒" を予感させた。
病を抱えた人物をまるごと包み込み ささやかに穏やかに続く人間関係で終わる原作とは そこの感触はだいぶ違う印象を受けた。

とはいえ PMSやパニック障害がどんなものか? 知るきっかけを視聴者に差し出すことは十分にできていると思う。
たぶん、実際に症状を抱えている人・抱えたことがある人からしたら物足りなく感じるだろうけれども、たくさんの人に見てもらうことで成功する商業作品の中に盛り込む塩梅を考えると控えめにせざるをえないだろう。

それよりも 周囲の人たちが ごくごく普通にそこにいる姿がよかった。
それぞれに悲しみやトラブルを抱えている。
だからこそ 人の辛さを思いやれる。
丘みつこが 高齢の未亡人を演じていたが そのへんの市井の人かと思うほどにナチュラルで 他者とのささやかな交流がもたらす温かみが滲み出ていた。
優しい社会って別にドラマチックなものではなく、特になにもなく穏やかな日々が続くことで、そう思って生活していけたらいいよな....

そんなの無理?あり得ない?
ん、瀬尾まいこ作品ってファンタジーだと私は思う。
でも、地に足のつかないふわふわしたものという意味ではなく、人の祈り・願いを言葉で綴った世界、という意味でのファンタジー。
わずかずつでも形にできたらね.....
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