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スパイダーマン:ファー・フロム・ホームのHrtのレビュー・感想・評価

4.3
MCU版スパイダーマンの2作目。『エンドゲーム』のセラピー映画としての役割を期待していたが、それ以上に楽しんでしまった。
サノス軍との死闘の勝利と引き換えにトニー・スターク/アイアンマンを失った世界で我々が必要としている新たなヒーロー。
その役割を強引に押し付けられるピーター・パーカー/スパイダーマンの葛藤を高校生らしい感性も交えながら大きな成長と共に描く。
MCUの集大成だった『エンドゲーム』の余韻はどこか感じさせながらも打って変わって単体ヒーローの規模感、ファニーなカットの挟み方など、程よい力の抜け方が良い。
力は抜けているものの、脚本の練り方は相変わらずの緻密さ。
大まかなテーマとしては『アイアンマン』、『キャプテン・アメリカ』、『マイティ・ソー』シリーズなどで扱われてきたものとさして変わりはしないが、はっきり異なるのはレガシーをMCUの現在の時間軸に沿って作り上げた人物亡き後、その後の影響を描くところだと思う。
『エンドゲーム』後という一番難しいタイミングの作品で、あらゆる制約がありながらも逆手に取りアイデアへと昇華させるストーリーの味わいは深い。

『ホームカミング』でのピーターの台詞からこの世界のメイおばさんにも何か不幸があったことが示されるが、MCU版「ベンおじさん」の役割を担うのは明らかにトニー・スタークその人だ。
スパイダーマンシリーズ全てを通してのテーマである「大いなる力には大いなる責任が伴う」を今シリーズのピーターに教え込んだのはトニー自身だということは疑いの余地がない。
ガントレットによる強大な力に耐えきれず、今際の際のトニーに泣きつくピーターが発する「ごめんなさい」という台詞。
『シビル・ウォー』でトニーが初対面のピーターに対しスパイダーマンとして自警活動をしている動機を聞いたとき、「自分に何かできるのにしなかったら、もしそれで悪いことが起きたら自分のせいだと思う」と彼は答えた。
その台詞の後のトニーの表情は印象的だった。
『エイジ・オブ・ウルトロン』でワンダの洗脳によって見た悪夢の中、トニーが倒れていたスティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカに言われたことと似ている。
ピーターのその言葉を受けたトニー、同じ使命感から結果として国1つ吹き飛ばしてしまった自分の様にはさせまいと思ったことだろう。
彼がクイーンズの高校生を後継者として育成しようと決めた瞬間だったと今は思う。

あの戦いでピーターがトニーの代わりに指を弾けたかどうかは分からないが、元来そういった性格のピーターにとっては最悪の形での別れだったのではないか。
心に大きな空虚を抱えた彼はどこに行っても亡きメンターの姿を見てしまう。
普通の生活を送りたい自分の意志に反してヨーロッパ旅行中にもヒーロー活動を強いられる中で、再び本来の使命感を取り戻し第六感を研ぎ澄ませていく様子を捉えた本作はピーター・パーカー自身のセラピーを描いてもいた。

運命に立ち向かうと決心したようにトニーのジェットの中、新しいスパイダースーツを自ら作り上げるピーター。
その姿にかつての親友を重ね感慨深げに見つめるハッピー。
「音楽は私が」と流す不意打ちのAC/DC “Back in Black”に思わず涙腺が緩んでしまった。
ひたすらに「戻ってきたぜ!」と叫ぶこの曲が、ピーターこそが新世代のナチュラルボーン・ヒーローだと言うことを歌ってくれていた。
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