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THE FIRST SLAM DUNKのHrtのレビュー・感想・評価

THE FIRST SLAM DUNK(2022年製作の映画)
4.6
映画のあまりの圧倒的なクオリティに膝から崩れ落ちたが鑑賞後数日経ってから驚愕の事実に自ら気が付いてしまいその場で絶叫してしまった。
本筋とはズレるが『THE FIRST SLAM DUNK』は公開前にほとんど情報が出ておらずそれはティザー映像からもほぼ分からない。
しかし愚かなことに自分は公開する前からいたるところで散見されたファンアートのポスターを公式と思い込んでしまいこの作品がvs山王工業ということを事前に「知っている」カタチになってしまったのだ。
もちろんちょっと調べれば公式からは何の情報も出ていないわけだからファンであれば分かったはずだが特に原作ファンでもアニメファンでもない自分は無自覚に与えられた情報だけを鵜呑みにし、あろうことかそれを周りの人に「山王戦なんでしょ?」みたいな軽いノリで適当に喋ってしまっていた。
これが偽情報だったらまだよかったのだが見事にスクリーンではvs山王工業が繰り広げられてしまい図らずも自分は徹底して秘密主義を貫いた映画のネタバレを無邪気にしてしまっていたという事態になった。
これに気付いたのは自分が実際に鑑賞した後、映画の感想を調べ始めたここ数日のことで自身のあまりの愚行さ加減に気を失ってしまった。
知らず知らずのうちに加害者になってしまったこの絶望感が伝わるだろうか。
こういう経緯で勝手に参ってしまい仕事も手につかずにいた(手にはついていた)が感想を書くことで一旦整理したい。

まずは最高だった。
モーションキャプチャーを駆使した3Dアニメーションはバスケットボールを描くにあたっては最良の手法だと言える。
というのもバスケは他のどんなスポーツよりも瞬間的で本能的なスポーツだからだ。
0.1秒マークを外せばシュートが決まる世界、自分が本作で最も好きだったシーンが疲労困憊の三井をフリーにするために赤木が彼のマークマンにスクリーンをかける瞬間のリアルさなのだがそういうディテールの凝り方はどんなバスケ作品とも似つかない高い動きの芸術性を表現していた。
スラダンがいつになってもバスケ漫画の頂点に君臨している1つの解がここにある。
本作の主人公・宮城リョータの納得の出自含め原作にある余白を巧みに利用するストーリーは、vs山王工業という到達点に至る説得力の強さに的確に作用する。
その陰で原作正史のナラティブ、すなわち桜木花道の成長譚は描かれていないことも事実。
それも含め映画作品として素晴らしい取捨選択だと思った。
もちろん原作改編は起きない。原作で起きたことは本作でも起きる。
だがその事実を違う角度から切ることでドリブル、パス、シュート、リバウンド、ブロック、スティールの1つ1つに新しい意味が与えられているのだ。
自分は原作モノの映画でこんなに興奮したことがない。
いや、それよりも全く違う種類の興奮と捉えた方がいいかもしれない。
これは原作者・井上雄彦が監督としてクリエイティブコントロールしたことの最上の結果であり、本作が示した可能性はアニメーションにとってとても有意義なものだ。
ラストの宮城の姿は間違いなく『SLAM DUNK』という1つの作品の成功と現実世界への拡大から生まれたものであり、そのことを互いに補完し合う終わり方にとても感動した。
監督の趣向であろう10-FEETやThe Birthdayの起用も功を奏し、クリエイター同士の蜜月さが作品に一層の強度を纏わせていた。
ざっと書いてみて心の整理がついた気がするのでここで終わりにしようと思う。
今後、情報を見かけたときには出どころや信憑性をまず確かめたい。というかそれには気をつけてたはず……
観る前からネタバレを話してしまった人たちに謝るところから2023年を始めたい。
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