Hrt

ザ・キラーのHrtのレビュー・感想・評価

ザ・キラー(2023年製作の映画)
4.7
映画館で観て配信されてからも何回か観た作品だった。好き嫌いは関係なくデヴィッド・フィンチャーをデヴィッド・フィンチャーたらしめる仕事術を語るドキュメンタリーフィルム(フィンチャーはデジタルで撮るけど)が本作なので必然的に引き込まれる内容になっていた。その内容だけにこれが彼のキャリア最終作であっても何もおかしくないが、やはりフィンチャー作品はヒットするし彼のやりたいことがやりたいようにできるのであればこの先もまだまだ撮り続けるだろう。1つの失敗から身内に危害が及び、その落とし前をつけにいくというのが本作の筋。その失敗はフィンチャーで言うところの初監督作『エイリアン3』の不振であるのかもしれない。主演のマイケル・ファスベンダーは10年前の主演映画『悪の法則』内で、欲をかいて裏稼業に手を染め、その失敗からカルテルに追い詰められる弁護士を演じていたが、この『ザ・キラー』では「後始末ならこれくらい徹底的にやれ」という薫陶を過去の自分の役に説いてるようにもみえた。面白いのが、殺し屋稼業はできるだけ人目につかず、ついても目立たず、あくまで資本主義下に身を置く市井の人間として振る舞うことを信条としている点。資本主義、それこそ少数派が多数から少しずつ搾取する構造がその経済体制だがその少数でいること。それ自体に感情移入はいらない。弱さが生まれればそれが隙につながる。対価に見合う仕事だけをし、つねに計画通りに動く。ここでも面白いのは、それを心で唱えながらも彼の行動はその信条とは真逆を行くものだと言うこと。即興はするな。経験上計画をよく練った上での即興は功を奏すパターンもあるものの殺し屋という登場人物の特性上それはあまりにも危険な賭けになってしまう。ひたすら冷徹に動く。ただし雇い主だけは生かしておく。資本主義にとって資本の出所は重要だ。懇意にするところはして、他は殺す。最初こそ失敗したものの後始末は完璧だった。好き嫌いは関係なく、と書いたけどかなり好きな作品だ。フィンチャー作品の中でも好きな方だ。ちゃんとロケーションして撮影しているのもすごい。似たような場所で済まそうみたいな手間を惜しむ映画製作はフィンチャークラスではあり得ない。彼の仕事とはそういうものなのだろう。
Hrt

Hrt