りっく

ジュリアンのりっくのレビュー・感想・評価

ジュリアン(2017年製作の映画)
3.7
冒頭から子供の親権について夫婦双方の弁護士が意見を早口で述べる。18歳になった長女は自由だが、まだ少年であるジュリアンは手紙での必死の訴えも虚しく、2週間に1回は父親と一緒に休日を過ごさなければいけなくなってしまう。

直接的ないわゆる家庭内暴力は描かれないものの、一応裁判所から父親として限定的ではあるが息子と会う必要があると見なされたという後ろ盾と、父親である以前に子供よりもあらゆる面で優っている大人という強権を振りかざし、語彙力で論破するタイプではなく、執拗に母親との面会や居場所を問い続ける、逃れられない地獄。タチが悪いとしか言いようがない。

そこで、母親を守ろうと小さな身体で無言の抵抗をし、それでも強権に屈して喋ってしまった自らを悔いて涙を流す少年ジュリアンの痛々しさが胸に刺さる。健気さと嫌悪が入り混じった眼差しだけで、この父親が今まで母子にどれだけの仕打ちをしてきたかが手に取るように分かる見事な演技だ。

そしてついに暴力によって力づくで母と子の安住の地に土足で上り込む場面の恐ろしさ。迫ってくる怒号と足音にバスタブに隠れて怯える2人の永遠とも思われる恐怖と安堵、だが銃弾が撃ち込まれた扉を閉めても、その先には真の母と子の安住はない。それを暗示させるようなラストの重々しさが、まるで鈍器で殴られたような感覚を持って迫ってくる。
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