Hrt

パンとバスと2度目のハツコイのHrtのレビュー・感想・評価

4.3
深川麻衣の静的な魅力が遺憾なく発揮されている。
今泉監督の当て書きによる彼女の魅力の捉え方は流石としか言いようがない。
一方で山下健二郎にも当て書きしたような役のハマり方。
ふみとたもつの何気ないやりとりからは学生時代の関係性が確かにみえてくる。
それを取り持つさとみ役の伊藤沙莉は3人の中で実年齢が一番下にも関わらず抜群の存在感だった。
美術の予備校に通うためふみの部屋に居候し始める妹の二胡は、ふみ側の物語を動かす。
仲良し姉妹でありながら姉のことを理解できずにいる妹は、彼女を知るために人物画のモデルにする。
この絵を描かせるところが出色な点で、二胡は中々思ったような絵を描けずにいる。つまり、姉のことが分からないままということが暗示される。
それでも最後には絵が完成し、それをふみの部屋に上がった時に見たたもつが「良い」と言う。
二胡が自分が描いたことを隠したことでたもつはこの絵がふみの自画像だと思っている。
ここから分かるのは、ふみに対する本人含めた3人のイメージが共有されることだ。
理解されるよしもなかったふみの内面が二胡によって露わになり、たもつによって評価される。
これは愛の形の表現に感じた。
実際、その後にはたもつがふみに訊くシーンがある。

本作の撮影時期だった6月の自然光のナチュラルな暖かさ、洗車中のバスの車内にいる深川麻衣の表情にあたる水滴が反射してまばらになった光が視覚を刺激する。
ふみの部屋に差し込む午前の日光、また夜になると点ける明かりの輝度のバランスなど、とにかく光の演出が素晴らしくて記憶に残る。

随所に人間が孤独になる瞬間を挟み込み、個人的にはそこにシンパシーを感じずにはいられなかった。
序幕でふみの日常ルーティンをみせることからもそれを感じる。
そして明け方、藍色から徐々に白んでいく空に街灯がまだ灯るいつもの道を(ここでも光の演出が良い)2人で歩いていくバックショットで終わる。
生活は続いていくとともに、変化の示唆も効いていた。
Hrt

Hrt