にしやん

聖なる泉の少女のにしやんのレビュー・感想・評価

聖なる泉の少女(2017年製作の映画)
3.7
ジョージア(旧グルジア)の南西部、トルコと国境を接する山間部に昔から口承によって伝えられてきた物語をモチーフに、静謐かつ神秘的な映像美を通して、古代からの信仰の世界を継承しようとする父親と現代の生活にも関心を抱く娘の姿を描いた作品や。

監督自身が「私は映像の芸術で、言葉の芸術ではない」と語るように、映像によって切り取られたジョージアの山間部の景色、良く晴れた日の鮮やかな風景はもちろんやけど、特に霧に包まれた風景が美しすぎる。とにかくきれいや。

それと、とにかくこの映画は静かや。ほとんど音という音があれへんわ。BGMあれへんし、自然な音だけを使ってて、それに台詞もあまりないしな。映像の繊細なディテールを強調したかったさかい、音楽や余計なセリフは要らんってことかいな。唯一音楽を使てんのが、3人の兄弟が身体の具合が悪なった父の家に集まった際に歌を唄うシーンや。キリスト教(グルジア正教?)、イスラム教、無神論と3人とも宗教が違ても、3人のピッタリと呼吸の合ったハーモニーそのもんが、祖国を思う気持ちは一緒やということをストレートに伝えとるな。それとストーリーの殆どが父親と娘との話が主軸やねんけど、3人のこの印象的な歌のシーンがストーリーにええアクセントをつけとんな。

あと、この映画、現代の物質文明に対する批判的なメッセージとして取る向きもあるやろな。確かにそういう側面はあるかもしれんけど、娘の一連の行動からはっきりと表されてるんは、現代文明へと移行していくんはある意味しゃーないもんやし、避けられへんもんっちゅうことやろ。せやから、物質文明を真っ向から批判してる訳やあれへんな。どっちかの肩を持つということや無しに、今のわし等の文明の中にかて、形はあれへんし、見えへんけれども、自然と人とのスピリチュアルな神秘的な交感みたいなもんがあるんやということを、静かに、詩的に感じさせてくれてるわ。ジョージアの山深い村、泉の水面に立ち込める霧、主人公の娘の立居振る舞いの美しさがそれを物語っとる。

「水」はもちろんやけど、「火」も重要な要素やな。父親や娘が祭祀で使うシーンも何遍かあったし、村人等が松明を掲げて湖の畔を歩くシーンはめちゃめちゃ神秘的やし、霊的やし、なかなかの見せ場やで。​あとは、聖なる(?)「魚」やな。あれは鯉かいな。魚も結構重要な要素やねんけど、娘の存在とダブらせてるな。娘は確かに美人やけど、何かちょっと魚っぽい顔してんなと思て観てたわ。わしの気のせえかなあ。​
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