アラバン

負け犬の美学のアラバンのレビュー・感想・評価

負け犬の美学(2017年製作の映画)
4.2
「あるいは裏切りという名の犬」(傑作)ほどではないにしても、これもハードボイルドに寄せ過ぎて邦題が滑っちゃってるクチ。
確かに内容を一言でザックリ表現すると「負け犬の美学」で決して間違ってはいないんだけど、なんというか、そんなにカッコ良くないし、ニュアンス的にもだいぶ違っていて、なんならハードボイルドというより、父と娘のほのぼのハートフルストーリーといってもいいくらい。しかもかなり良質。

引退間近のロートルボクサーがチャンスを掴むとなると、思い浮かぶのはロッキーだけど、あれはあれで思いっきりファンタジーであることは間違い無く、それに比べるとこちらは非常にリアル。

スパーリングでのチャンピオンのジャブの異常な速さと圧倒的な技術の高さ。これはもうロートルがどんなに努力して頑張っても夢も希望も入り込む余地のない冷徹な現実を見せつけます。

自分を変え才能を開花させビッグマッチに挑み、感動的な音楽とともに立ち上がって栄光をつかむロッキーもそれはそれでアドレナリンドバドバですが、こちらは見事なまでに真逆。

感動シーンてんこ盛りでいけるはずの最後の試合でも、みんなが望むようなドラマチックな展開をあえて避けて、あくまでも作品のトーンを崩さない。最後の試合だけは娘に見せると決意していた、そのラストマッチの見せ方がそれですかって。

でもそのトーンで通してるからこその吃驚するくらいに素晴らしいラスト。
ピアノの演奏。
もうなんという絶妙すぎて死にます。
深みがあって、微笑ましくて、じわっと染みる感じで秀逸。逆カタルシス。
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