Yukiko

アクト・オブ・キリング オリジナル全長版のYukikoのレビュー・感想・評価

4.3
2018年4月15日
『アクト・オブ・キリング』2012年イギリス・デンマーク・ノルウェー制作
監督、ジョシュア・オッペンハイマー。

1965年、インドネシアのスカルノ大統領が、スハルトの
クーデターにより失脚した。
事件の黒幕は「共産党」と決めつけられ、インドネシア全土で
共産党支持者や中国人の100万人規模の大量虐殺がおきた。
その後、スハルト政権のもと、事件に触れることはなく、
加害者達は何の訴追もされていない。
大虐殺を隠すスハルト政権を日本や西側諸国は支持し続けた。

その事件をオッペンハイマー監督は、被害者に取材していたが
軍の圧力で撮影できず、代わりに加害者に取材をした。
すると、加害者達はその事件の多くのシーンを自慢気に語り、
加害者達が行った行為を、自分達で演じて再現した。
虐殺を生き抜いて、加害者達を恐れながら今現在も同じ地域で
生きている被害者達と共に、映画作りに参加をした。
それらの様子を記録したドキュメンタリー映画である。
映画に出演をしているのは皆、当事者達なのだ。


日本や西側諸国は安い賃金と豊かな資源が魅力である
インドネシアの土地を支配するため、スハルト政権を支持。
反共の旗印を掲げた。
ソ連とアメリカは冷戦状態の時代だった。
加害者達が指示する人達は、その時代インドネシアの政治家や
要職に就いていた。
それ故、大量虐殺の訴追を免れていた。

重い内容の映画だ。
加害者が残虐行為を行ったことを悪い事だと思っていずに、
喜んで楽しく話すのが堪らない。
観ていて辛く、何度も観賞を中断した。

加害者側で、ちょっと小太りな体格の良い方が、オアソビで
女装しているシーンが笑える。
重く残虐な内容の映画だが、そのオアソビやミュージカル
部分が内容を軽くし、救っているとも言えるが、それほどに
自分たちがした行為に罪悪感を感じていないんだと驚く。

主人公役のアンワルが次第に心の闇を垣間見せていく
のが良い。
アンワルは落ち着いた物腰で、知性ありそうに見えるので、
単純に人を殺して良しとするだけの人間には見えない。

「現代社会は巨大な暴力の上に成り立っている」と
オッペンハイマーの弁。
しかし、「ペンは剣よりも強し」と、ブルワー・リットンの
言葉もある。

2014年には『ルック・オブ・サイレンス』として、
今度は被害者の立場から描かれた映画が公開された。
Yukiko

Yukiko