TAK44マグナム

人狼のTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

人狼(2018年製作の映画)
3.4
人には二種類いる。
犬か、狼かだ。
おまえはどちらなんだ?


押井守のケルベロスサーガの一編であるアニメ版「人狼」を韓国が実写映画化。
監督は「ラストスタンド」でシュワちゃんとも組んだキム・ジウン。
主演は、整った鼻や強い目力が魅力的なイケメンであるカン・ドンウォン。


・・・
あれは確か高校1年か2年の頃。
部室に、よくは知らないOBの先輩が訪ねてきて、「ものすごく格好いいから見せてやる」とVHSテープをデッキにセットしたんですね。
それが、千葉繁が主人公を演じた「紅い眼鏡」との初めての出会いでした。
格好いいと言ってもそれは冒頭だけで、本来は千葉繁のプロモーションムービーが発端だった作品であり、ナンセンスなギャグ中心のなんちゃってSFがその正体。
キモであるプロテクトギアも最初にチョロっと登場するのみでしたが、それでもひどく印象に残りました。
それからというもの、実写第二弾の「ケルベロス地獄の番犬」やアニメ版の「人狼」をレンタルして一喜一憂したり、藤原カムイ画のコミック「犬狼伝説」を読んで首をひねったり、メディコムトイ製のRAHプロテクトギアを大人買いしたりしてきましたが、いつか実写での決定版を観られる日がくると信じて待っていました。
まさか韓国で製作されるとは想像していませんでしたけれど、逆に韓国ならアクション面や暗黒面で邦画よりも期待できるかも?と、劇場公開を心待ちにしていたところ、何故か日本ではネットフリックスの配信のみという事態に・・・
とりあえず、厳しい意見も飛び交う中、鑑賞してみた次第です。



現在よりそう遠くない未来、列強に囲まれた朝鮮半島は歴史的な南北統一をはたそうとしていたが、それに反対する過激なテロ組織である「セクト」が台頭、その破壊活動によって韓国の治安維持は困難を極めていた。
その危機に対処するため、政府は警察の実力行使部隊を編成する。
特殊な装甲戦闘装備に身を包み、重火器で完全武装した「人の形をした狼」・・・
セクトのみならず一般市民からも畏怖された彼らこそ、首都圏治安警察機構警備部に属する「特機隊」である。
特機隊の行使する「正義」によって次第に力を失ってゆくセクト。
しかし、彼らに対する「本当の敵」は別に存在していた。
激しい権力闘争の中、特機隊を失墜させるために暗躍する「本当の敵」、その正体とは・・・?


舞台を架空の日本から、現実的な近未来の韓国にうつした実写化でありますが、その点についての違和感はさほど感じられず。
鑑賞もしないで「反日が撮った」云々と文句を垂れている輩が某所で多く見受けられましたが、実際には反日要素など皆無に近いです。
冒頭の世界観の説明で日本という国名が登場はしますが、別に日本と韓国が戦争をしているという背景があるわけでもないですし、反日要素を気にして観ないというのは違うのではないかと思います。

押井守をして「これは日本では撮れない」と言わしめた本作ですが、それが皮肉なのか、それとも正直なジェラシーなのかは分かりません。
しかし、銃撃戦をはじめとするアクション設計、硬質かつ繊細な絵作り、迫力のあるモブシーンなどは、たしかに邦画がまるで追いつけないレベルに見えます。

それでは、ジャパニメーションの代表作のひとつとして数えられ、評価の高いオリジナル版「人狼」と比べるとどうなのか?
鑑賞してみて思ったのは、雰囲気は良く出ているなという事でした。
監督は、きっと原作のファンなのでしょうね。
細かい部分をわざわざ再現したり、「人狼」という作品の世界観の表現には尽力している感が伝わってきます。
しかし、やはり少しメロドラマに振りすぎているような気がしました。
改変されたラストはスイーツの如く甘ったるく、全体的に、乾いた狼の世界よりもジメッとした人間の世界を描いている風に感じられました。
それは個人的に思い描く押井守のケルベロスサーガとは微妙にズレており、少々かったるい展開も相まって、何度も瞼が重たくなってしまいましたよ。

それでもアクションシーンは概ね満足できる仕上がりでした。
お金がかかっているだけあって、クライマックスのプロテクトギアによる公安部とのバトルも、中盤のカン・ドンウォンによる生身のアクションも、眠くなっていた脳みそを起こすのに充分なものでした。
生身のアクションでは、クイックでスピーディ、展望塔からカーチェイスまでノンストップの迫力で押しきってくれますし、プロテクトギアを装着してからは圧倒的な戦力で、多少の危機もものともせずに蹂躙してゆく「人狼」の凄まじさを見せつけてくれます。

「主役」とも言える強化装甲戦闘装備のプロテクトギアの出来も良く、格好いいの一言!
暗闇に赤い眼が浮かび上がってくるだけでゾクゾクとしてきます。
あんなに装甲が強固だったかな?とも思ったのですが、集団戦闘が後半には無いので、たった一人の「人狼」を圧倒的に魅せるためにはあのぐらいの外連味も必要かもしれませんね。
とにかく、コスプレ映画としては及第点でしょう。

本国では大ゴケし、オリジナル版が生まれた国である日本でもネットフリックスでの配信のみとは寂しいですけれど、スケールの割にはみみっちく感じられ、人物描写も薄っぺらいのが嫌われた理由かもしれません。
この内容なら100分に収まってほしいですね。
雰囲気重視での140分の長尺は、いかんせんキツ過ぎますよ。


政治的な場面があまりにも稚拙なので、勝手を言わせてもらえるならばアクションにもっともっと特化すべきだったかもしれません。
何箇所か、ハッとさせるビジュアルがあり、プロテクトギアの凶悪な格好良さはマグナム的評価基準をかなり底上げしてくれましたが、それらを以ってしても中の下ぐらいの凡作に映ってしまい残念でした。

それでも、押井守が内輪ウケみたいに低予算で撮った「紅い眼鏡」や「ケルベロス地獄の番犬」と比べれば雲泥の差で面白いので、やはり、暗い井戸の底の様な話にも潤沢な資金をかけて映画化できる隣国に対する嫉妬心と、邦画界への口惜しさが入り混じった「日本では撮れない」発言だったのかもしれませんね。


NETFLIXにて