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ベン・イズ・バックのhynonのレビュー・感想・評価

ベン・イズ・バック(2018年製作の映画)
3.8
ベンが帰ってきた。
いや、彼は本当に帰ってきたのか?
どこへ帰るのか?
…という話。

まったくの偶然なのだが、先日観たばかりの「DOPESICK」と同じく、麻薬性鎮痛薬オピオイドの依存症がテーマの作品だったので驚いた。
最近では、依存症がテーマの作品ではないのに登場人物が鎮痛薬を乱用するシーンがあったりして、アメリカで鎮痛薬依存がいかに蔓延しているかがうかがえる。

構成が上手い。
少年が薬にはまっていく過程を描くのではなく、更生施設から帰ってきたところから始まり、過去に何があったかが間接的に明かされていく。

「DOPESICK」の登場人物たちもそうだったが、何より恐ろしいのは、彼らが好奇心や快楽目当てで自ら薬に手を出したわけではない、ということだ。

怪我をして病院を訪れ、痛みに対する治療として鎮痛薬を処方される。
その状況で、医師から処方された薬を疑う患者がいるだろうか?
指示通りに薬を服用した結果、依存症になってしまう。
彼らに非はない。責められるべきは製薬会社と国と医者だ。

薬の強力な依存性によって脳に恒久的な変化が引き起こされ、薬なしではいられなくなってしまう。
こうなるともう、自分の意思でやめることはできない。
依存性患者は何が何でも薬を手に入れようとして、嘘をつき、盗みを働き、体を売り、鎮痛薬が手に入らなければ別の麻薬に手を出す。

被害者は患者だけにとどまらない。その家族と周囲の人々も、否応なしに巻き込んでいく。

この映画では、依存症の原因となった医師と母親が対峙する場面から、この理不尽な苦しみに対する怒りとやりきれなさがひしひしと伝わってくる。

監督・脚本を務めたピーター・ヘッジズの実の息子であるルーカス・ヘッジズと、ジュリア・ロバーツの繊細な演技も見どころ。

派手さはないものの、ひとつの家庭を通してオピオイド危機の実際を丹念に描いた秀作だと思う。
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