April01

ザ・リトル・ストレンジャーのApril01のレビュー・感想・評価

3.4
サラ・ウォーターズの小説The Little Stranger、邦題は「エアーズ家の没落」を原作とするゴシック・ホラー風味のサスペンス。1948年の英国が舞台となり、第二次大戦を経て疲弊する館と貴族階級の時代の終わりそのものが題材として描かれている。恐怖心を煽るよりは静かに進むプロットの中で登場人物の心理を分析しながら謎を読み解いていくようなミステリー仕立て。
緑あふれる美しい風景の中で、アンティークな豪華さのある古い屋敷が徐々に陰鬱で不穏な空気で覆われていく様子は絵的に不気味ながら美しい。
平民の出自で医者というステータスを持つ繊細で複雑な人物をドーナル・グリーソンが感情を抑え気味に演じている。
シャーロット・ランプリング演じる館の母親が、目線やさり気ない言葉で自意識をひけらかし落ちぶれても上流階級という体に染みついた空気を上手く表現している一方で、ルース・ウィルソン演じる娘は、多くのスタッフを雇えず若く経験の浅いメイド1人を置き、自ら家事を担って服装も野暮ったくやつれた雰囲気を漂わせて母との対比を際立たせている。
ウィル・ポールター演じる息子も戦争で負傷を追った身で広い屋敷で気持ちが空回りし精神的に追い詰められていく様子が痛々しい。

小説は最後まで犯人を明示せず読者に委ねられているのに対し、本作は明確に答えを示していて1つの解釈作品となっているけれど、果たしてどこまで犯人の能動的行為だったかという点に推測の余地を残してくれている。無意識もしくは潜在意識のなせる業と考えても納得いくくらいの強い感情と執着心が十分に描かれていたと思うので。
April01

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