April01

ピアノ・レッスンのApril01のレビュー・感想・評価

ピアノ・レッスン(1993年製作の映画)
3.6
映像美もさることながら、彩りを添えるマイケル・ナイマンの音楽が素晴らしい。テーマ曲として奏でられる「楽しみを希う心」が印象的。哀しげに流れる美しいメロディが作品の情緒を一層高めてくれている。

再見になるけれど、以前見た時には感じなかった感想がたくさん湧いてきた。特に娘フローラのこと。 

主演のホリー・ハンターの演技が素晴らしいのは言うまでもないけど、娘フローラを演じたアンナ・パキンの魅力が最高に弾けている。あどけないのに生意気なこの年頃の女の子の複雑さが見事に表現されていて、娘フローラの存在がなければ、この作品のドラマ性は生まれなかったといってもいいくらい作品の肝。

新しい環境に投げ込まれる時の不安感、そこに上手く馴染んでいく子供ならではの柔軟性、ゆえに知らなくてもいいことにまで首を突っ込んでしまう好奇心、微妙な年齢ゆえに起きていることの意味を理解しつつ直接その件で母に対峙はできない、受け入れないといっていた新しいパパの肩を持つ良い意味でのズル賢さ、心の中では全てが上手く行って欲しいゆえの無意識の処世術の行く末だったと思う。
その行為が招いた悲劇。

以前は主人公の心にばかり気持ちがいったけれど、時を経ての再見の今回は、正直主人公のことはあんまりって感じ。
結ばれる2人のことは、どうしてそうなったかとか、理由なんかもうわかりきっているので。

それより、主人公も一方で随分と残酷な仕打ちをやってるな~、と人生経験積んだ今になって、あんまりヒロインに感情できなかったのが驚き。
もちろん弱者に対する優しい視線は忘れてはならない。でも言葉が離せなくて手話でのコミュニケーションだからといって、それを感情移入させる手段として使っているのが、ちょっとあざといかなと思えてしまう。

通り一編の一般論は今さら触れないことにして、自分は、サム・ニール演じる旦那のこと、悪い!ヤな奴!と切って捨てることもできないな、と前に観た時には思ってもみなかった感情が湧いてきたから不思議。

一番エグイと思ったのは、エイダが一方でやらかしておきながら旦那に変なボディコンタクトして関係を誤魔化そうとする場面。
あんな風に触っておいて、その気にさせて旦那に触らせないで拒否するとか、性格悪すぎやしませんかね。だったら何もするなよって感じ。
確かに無神経なダメな旦那かもしれないけれど、なんとか上手くやりたいと努力する姿勢は見せていたし、単純に2人の相性が悪かっただけであり、例えピアノの件や色んなことですれ違いがあったとしても実質的にフィジカル的に裏切ったのはエイダの方なので。なのに、なんか被害者みたいな振る舞いぶりがあんまりだし、あんな中途半端なボディタッチして拒否るとか、だったらとっとと駆け落ちすれば良かったのではないですか?と言いたくなるような気持ち悪いシーンだった。
アレがあったために、変に旦那側に同情心湧いてきて、最後までちょっと主人公に感情移入がままならないで終わってしまう。

つまり自分も色々と変な意味で経験積んで、ある意味すれちゃって見方が変わって悲しいなって、なんか自分を憐れむ気持ちが湧いてきてしまった。

作品の理解に及ばず気に入らないか、作品を理解して感動して涙できるか、はたまた1週まわって騙されないよって構えちゃう自分みたいな変人か、見るタイミングや人によって評価が分かれると思う。

そんな風に何層にもレイヤーが重なっているような物語だからこそ芸術作品として評価が高いというのもわかる。
April01

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