TAK44マグナム

未来のミライのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

未来のミライ(2018年製作の映画)
3.5
こんな時期もあったよね。



日本の商業アニメ界を担う巨星のひとり、細田守監督作品。

細田守は、「サマーウォーズ」以降、一貫して「家族」を描いてきていますが、本作は今までの作品より更にミニマムな世界観で「家族」を扱っています。
なんといっても、家一軒、ひと家族しか、ほぼほぼ登場しないのです。
お父さんやお母さんは仕事に出ますが、その先は描かれません。
それでも、世界が縦軸に広がってゆきます。
つまり、時間です。
過去、未来、そして異様な別空間?にも繋がっている場所が家の敷地内にあるのです。
そこが中庭。
主人公の四歳児、くんちゃんが中庭に行くと、時には飼い犬が人間となり、時には生まれたばかりのはずの妹であるミライちゃんが大きくなってやってきます。
更には過去に遡り、ひぃおじいちゃんから教えを請うたりします。
そのたびに、わがままで、嫉妬深く、自転車にも乗れなかった(つまりは普通の、どこにでもいる四歳児である)くんちゃんが少しずつ成長してゆくわけです。
この点だけが唯一ファンタジーな部分で、他は現実社会そのまま。この構図は、他の細田守作品もだいたいそんな感じですよね。
世界観の全てをファンタジックな異世界で占めずに、あくまでも現実の世界と隣り合っている「超常」がある、みたいな。

公開時にはかなり批判が集まったかと思うのですが、今更になって鑑賞してみると、細田守作品に皆んなが求めたものとのギャップが拒否反応をまず引き起こしたのではないかと想像できます。
ジブリが「となりの山田くん」を題材にしたときと同じような感覚。
つまり、異世界での冒険を描いた娯楽大作を世間は期待したのに、異世界も冒険も、刺身のつま程度にしか出てこない作品で面食らった、と。
予告編でミライちゃんとくんちゃんが空を飛んでいた場面が、まさかあんなに冒険冒険していなかったとは、と驚きが怒りに変わるのは映画にはよくあることですし。
しかも、主人公がミライちゃんじゃなく、四歳児のくんちゃん。
みんな誰もが通った道の筈なのに、共感できない主人公。
それに加えて、くんちゃん役の上白石萌歌の、演技はともかくとして声の合ってなさがトドメを刺したのでしょう。
監督が「イメージにぴったり」と推薦したという話ですけれど、くんちゃんの声に関してだけは世間の反応同様、個人的に全く合っていないと思います。
四歳児の男の子には聞こえませんでした。
なんとかしようとして、逆に違和感が大きくなってしまっています。

しかし、作品全体としては悪くない、というか寧ろ好きな方です。
風呂敷を下手に拡げてないだけ、「バケモノの子」よりかはまとまっていて良いんじゃないでしょうかね。
観ていて、お父さんがあたふたしているところとか身につまされるのは正直いって難点ですけれど(汗)、子供はいつのまにか成長してゆくというテーマはちゃんと消化できていますし、幼い子の心象風景的な駅の場面や、ひぃおじいちゃんとの邂逅などは普通によく出来ていました。
ただ、これを夏休みに公開する大作アニメとすると、ビジネスとして考えれば失敗作と言われても仕方ないとは思います。
子供が観ても退屈しかねないでしょうし、大人が観るとあまりにも現実的な話なので、これならアニメじゃなくて良いと思われるかもしれません。

思うに、仲の良い家族で一緒にまったりと観るのにマッチした作品であり、何かしら問題をリアルに抱えた家族や、独り身の方が観ても、楽しさよりも先に苦々しさがきてしまうかもしれませんね。
実際、家族揃って観たいとは思いません。予想するに、子供や夫婦関係の部分で言わなきゃよいことをあーだこーだと言い出しかねないからです(汗)
劇中のお父さん、お母さんはお互いをよく理解しているふうでしたが、みんながみんなそうだとは限りませんからね。
平和な家族が団欒時に鑑賞するのなら、お子さんの年齢が肝心かもしれません。
小学校高学年ぐらいのお子さんと、「こんなころもあったねえ。もしかして未来から誰かきた?」とか何とか会話しながらの鑑賞が最適でしょう。

ちょっと疑問だったのが、どうして未来のミライちゃんは何でも知っているのか?って事。
未来のくんちゃんが教えてくれるのかな?
まじめにタイムパラドックスを考えるようなものではないのでしょうけれど、何か複雑(苦笑)
未来のミライちゃんも、犬のゆっこも、イマジナリーフレンドみたいなものだったのなら納得ですけれど。
子供の想像力は無限ですから。

あとですね、ひぃおじいちゃんが異様にカッコいいんです!
何、あのイケメン!?
ひぃおばあちゃんとのエピソードも良かった。

「数多の偶然が必然となって、いまの自分たちがいる」という、誰もが一度は馳せる想いを映像化した作品として、まずまずの良作ではないかと。
だから余計に、上白石萌歌が悪いわけではありませんが、ミライ繋がりで白石冬美さんとか、それこそ野沢雅子さんが幼児を担当しているのを観て勉強してから挑戦するべきでしたね。
というか、そもそも監督のセンスが疑われる案件(汗)
作品がどうのこうのという以前の問題なので、とても勿体ないと思いました。


地上波テレビ放送にて