ぴのした

15時17分、パリ行きのぴのしたのレビュー・感想・評価

15時17分、パリ行き(2018年製作の映画)
3.8
イーストウッドすごい。「テロに偶然居合わせた若者たちと、テロリストとの戦いを描いた映画」…ではない!!!

いや確かにそのシーンがメインになるんだけど、実際に戦うのは5分程度。でもだからってつまらないわけじゃなく、むしろだからこそ観るべき価値がある映画。

物語の前半は後にテロリストと戦うことになる若者たち3人の幼少期を描く。後半はその3人がヨーロッパ旅行をする様子を描く。テロリストと実際に戦うのは、その後半のほんと最後の数分。

この無駄に長く見える旅行シーン、まじで普通に旅行してるだけのシーンを延々と20分くらいやる。「自撮りしよやイェーイ!」「クラブでパーリナイ!!フゥーー!」「やべえ酔いつぶれた…」みたいな。見てる時は「俺は今まじで何を見せられてるんや…」と思うんだけど、見た後このシーンがあって良かったと思うことになる。

あの長い旅行シーンから唐突にテロが始まるからこそ、「テロというのは特別な人々の元に劇的に起こるものではなく、普通の人々の普通の生活の延長線に唐突に現れてくるもの」ということがひしひしと伝わってくるからだ。

「15:17パリ行き」という具体的で、誰もが普段駅で目にする字面をそのまま使ったタイトルも、この物語の普遍性を観客に感じさせる意図があるように思う。

また、この映画はこれが誰にでも起こりうるという普遍的な物語だけでは終わらない。最初の幼少期を描くパートがあるおかげで、「認められなかった問題児たちが、それぞれ努力してみんなに讃えられる」という彼らの個人的なサクセスストーリーとして、ヒューマンドラマとしても楽しめる仕掛けになっている。

このドキュメンタリーチックなメッセージ性と芸術性を持たせつつ、ちゃんとドラマとしても楽しめるような構成に仕上げてくるのがさすがイーストウッドだよな。作りが丁寧というか、しっかりしてるなあという印象。

てか普通「テロリストが電車をジャックする前に乗客が数分頑張って取り押さえました」なんて事件だけで2時間も面白い映画作れないし作ろうとも思わないよ普通。だからこそそれをやり遂げたイーストウッドはすごいし、テロ以外の時間を描くことでテロの普遍性や彼らの勇気の偉大さを表現したこの映画は観る価値があるんですよ。