YasujiOshiba

Summertime/サマータイムのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

Summertime/サマータイム(2016年製作の映画)
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ここのところ続けていたムッチーノ祭りで、最大の収穫がこれ。今までは Come te nessuno mai (1999) がベストで、『リメンバー・ミー』(2003)が次点だったけど、ぼくのなかでこの作品、両者を抜いてトップに躍り出た。

ネットフリックスで『Summertime/サマータイム』として配信されてたみたいだが、今は見当たらない。ぼくが見たのはイタリア版のDVD。英語の台詞がイタリア語に吹き替えれてるかと思ったが、幸いオリジナルのまま。というか、これを吹き替えるのは無理。イタリア語と英語を行き来するセリフのやりとりが、その魅力なのだ。

主役の男の子、マルコを演じたブランド・パチット(1996 - )はローマ生まれの俳優だけど、すでにテレビではご活躍みたい。そのマルコとサンフランシスコに行くマリアはマテルダ・ルッツ(1992 - )が好演。

ルッツは、アメリカ人の父とイタリア人の母を持つミラノ生まれの女優さんで、やはりテレビで知られるようになったようだ。英語は堪能みたいで、『ザ・リング/リバース』(2017)とか『リベンジ』(2017)のスクリームクイーン路線で主演をはっているけど、この作品では実にみずみずしい演技を披露してくれてる。

設定としてうまく機能しているのが、マルコとマリアのふたりがサンフランシスコでお世話になるのがゲイカップルのところというあたり。そもそも、ふたりは恋人でもなんでもない。ただ、高校生最後の夏休みの冒険先をアメリカに選んだというだけ。この出発点の設定はナイス。ぼく自身が留学したときも、似たような経験がある。

そしてゲイのカップルの描写も好印象。ともかくムッチーノ、問題含みのカップルを描かせると実にうまい。この設定ではその実力がピタリとはまってる気がする。

おっとそれから音楽がよい。担当したのはジョヴァノッティ。イタリアで人気のラッパーでシンガソングライターだけど、この映画のイタリア語タイトルと同名のサマーソング L'estate addosso がなかなかよい。「addosso」と言われると、夏(l'estate)が体の上にまとうような感じなんだろうな。日本語にすれば「夏をまとって」みたいな意味になるのかもしれない。

イタリアでは夏のヴァカンスは最高のとき。しかもそれが高校を出て、次の進路を決めるまでの時期の夏となると、これはもう人生で唯一無二。日本だったら学校や仕事が再開するだけだけど、イタリアでは新しい学校、新しい仕事、まさに新しい仕事が始まることになる。

だからイタリアの夏は、日本の僕らが感じるものよりも、少しばかり特別なもの。この映画は、そんな夏を本当に特別なものにすることの意味を思い出させてくれて秀逸だった。
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