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君が君で君だの8637のレビュー・感想・評価

君が君で君だ(2018年製作の映画)
4.5
2回目。
こんなにも非道徳的な生き方を"青春の終わり"みたいに捉えて観客に伝える事ができた、松居大悟監督の最高傑作だと思っている。
この映画を愛している。

一人の女性に、何故ここまでの事ができるか。その活力は何処から。

今じゃ"ストーキング行為"と呼ばれても罪悪感すら感じないこんな生活習慣だが、初めはときめきながら、感情の赴くままに始めた事だろう。これを「若気の至り」と定義するにはあまりにも犯罪的で儚いけれど。

でも、いくら隔てた場所から"観察"しようとしても、彼女の心までは読めなかった。

少し考えさせられたのは、彼らの国が守っている「干渉しない」という掟には、"姫の選択を受け入れ見守る"という意味も含まれているという事。これを「見放した」と言ってしまえば終わりだが、守っていた者の崩壊に敢えて涙しないのが彼らなりの生き様だった。

宗太も宗太で、どれだけ取り乱そうが真の愛を持っていたと僕は信じる。

何より好きなのが、所々に入る尾崎の空想。彼らのやっている事はもっとも変態行為なのだが、尾崎の中ではこれを純愛と捉えられている。その感情を「刹那すぎる」と唯一共感できる瞬間。特に最後の、ハッピーエンドとは言い難いが幸福な終焉。初見では泣き崩れていた。

僕も同じように、この物語に救われた日があったよ。どんな逆境があっても彼らは明るいし、"太陽"に照らされながら自分なりの人生を謳歌している。気持ち悪いとは思わない、と言えば嘘になるが。

尾崎がソンの事をいつまでも語れる姿は、まるでその想いが純愛だとも知らずに映画の事をベラベラ語る私達のようだ。
いや、でも僕は、尾崎のソンへの想いには敵わないが、映画を愛している。彼らみたいに、映画をストーキングしたい。映画と同じ瞬間に同じ物を食べたい。

鑑賞後、「君が君で君だ」というタイトルが、愛に埋め尽くされた彼らがどうしても認めない愛を代わりに語っているようにも思えてきた。涙。
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