真田ピロシキ

万引き家族の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.9
家族という名の幻想と呪い。犯罪を通じた疑似家族の存在が明るみになって池脇千鶴演じる刑事が責め立てる。「本当の家族ならそんなことはしないでしょう」と。"本当の"家族とは何だろう。安藤サクラが「産んだだけで親なの」と皮肉で返したように血縁が必ずしも家族を保証しないことは作中のネグレクトや暴力を見ていれば殊更に説明するまでもない。是枝監督の過去作『そして父になる』や『誰も知らない』でも描かれていたように家族を取り扱った作品ではよく見るテーマ。本作はその先がある。美しい(昨今ではすっかり胡散臭い言葉だ)家族愛を消費してそれで良いのかと。

家族ならお互いを思いやり支え合って生きるべき。そんな思想が蔓延している。親の介護は自己を犠牲にしても自分の手でやれ。親族がいるなら生活保護など受けさせるな。そうした正論ぶった押し付けは貧弱な福祉の体の良い言い訳として利用される。でもさぁ、皆さん分かっているでしょう?家族だからって慈愛に満ちてるとは限らないし、愛があっても家族単位で出来ることには限界があるってことを。小さな繋がりでは結局人を救えなかった『わたしはダニエル・ブレイク』と同じようにスクリーンの中で完結せずこっち側へと言葉を投げかける。

向こう側の世界で終わらせないのは人物描写の現実感。樹木希林演じるお婆ちゃんの夫の浮気相手の孫娘 松岡茉優への心境。本当の孫のように思っていたのか。それとも意趣返しだったのか。恐らくどっちも正しい。リリー・フランキーと安藤サクラの間柄や車中暮らしの子供を拾った理由も情があると同時に打算でもある。盗みを正当化する論理が全く辻褄合っていないのも当然だ。彼らはルパン3世のような哲学を持って盗みをしているのではないのだから。現実世界の人間はフィクションのキャラクターと違って隙のない整合性など持っていないし、伏線を貼って回収したりもしない。劇映画の形を取ったドキュメンタリー。是枝監督のキャリアがドキュメンタリーから始まったことを踏まえるとより意味深く感じる。唯一気になったのは風俗店で働く松岡茉優が客の4番さんに好意を抱くこと。実際は既に高校卒業しているとは言ってもJKビジネスに通うような気持ちの悪い男を好きになるのか。なくはないだろうがレアケースだろうと。ここだけファンタジーに見えた。

出演者は評判通りの安藤サクラ。この人は美人顔ではないのにリリー・フランキーと久し振りにヤるシーンの直前など実に艶かしい。弱みを握られた同僚にドスを効かせたり、取り調べ中に頭を掻きむしりながら答える様子は本作のドキュメンタリー的な迫真性を更に強める。家族の顔をしてる所も真実で極端な善人でも悪人でもない生の姿を曝け出す。子役の城桧吏も『誰も知らない』の時の柳楽優弥を思い出させる風貌。個人的な最優秀演技は最初にも述べたクソムカつく池脇千鶴。エンドロール見てどこに出てたっけと思い返すまで気付かなかった。

愛する美しい母国の批判をするなとある種の人達に蛇蝎の如く嫌われているようで現代日本批判は痛烈。しかし批判しているのは現政権のお偉いさんと言うより自己責任の空気を受け入れ尻馬に乗っている貴方達の方。普通の日本人様がヒステリックに騒げば騒ぐほど、日本の醜さ幼稚さを露わに炙り出す。