サマセット7

万引き家族のサマセット7のレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.0
監督は「誰も知らない」「海街diary」の是枝裕和。
主演は「ぐるりのこと」「凶悪」のリリー・フランキーと、「愛のむきだし」「百円の恋」の安藤サクラ。

舞台は東京の下町。
治(リリー・フランキー)と信代(安藤)の夫婦は、祖母初枝、息子祥太、信代の妹亜紀の5人で、一軒家に住う「家族」。
家族の収入は乏しく、家計の不足は治と祥太の万引きで補っていた。
ある日、万引きの帰り、幼い少女が団地の外廊下で震えているのを見つけた治は、つい家に連れ帰ってしまう。少女は明らかに虐待を受けていた。
逡巡するも少女を加え、6人の生活が始まるが、家族はそれぞれ秘密を抱えていた…。

カンヌ国際映画祭において最高賞パルム・ドールを受賞。その他国内外で数多くの賞を獲得。
パルム・ドールの日本人監督作品の受賞は21年ぶり5作品目。
2010年代の日本映画の最高到達点と言える作品。

ジャンルはヒューマンドラマだが、窃盗の描写が頻出し、クライムドラマの側面もある。

今作の見所は数多い。
脚本、演出、撮影、音楽、キャスティング、いずれもレベルが高い。
何より、俳優陣の演技と、テーマ性の深さが際立っている。

万引きという犯罪行為で生計を補ってはいるものの、一見「家族」そのものにしか見えない5人。
しかし、序盤から、父ちゃんとの呼称に関する治と祥太のやりとりなどの会話の端々から、どうやら一般的な家族とは異なることが繰り返し示唆される。
この家族は、一体、何なのか。
この謎が、物語を牽引する。

カメラは中盤までじっくりと6人の生活を映し出し、6人の関係性の深まりや変化を、時に生々しく、時に幻想的に炙りだす。
いくつかある俯瞰ショットはいずれも絆を表現して印象的だ。
中盤までの描き込みが丹念であるが故に、ある事件をきっかけに動き出す終盤の展開には、怒涛の如く飲み込まれる。
終盤の、人物を正面から映し出すカメラワークによって描かれる「家族」の真実は、各人の迫真の演技もあり、心を突き刺す。
リリー・フランキー、樹木希林、松岡茉優らいずれ劣らぬ演技巧者が演じる登場人物全員が素晴らしいが、1人挙げるなら、安藤サクラ。
彼女が演じる信代が終盤、声なく涙を流すシーンは、今作の全てが詰まった名演、名場面である。

祥太とりんという、子供たちの演技もまた、いちいち自然で、神がかっている。
この辺り、「誰も知らない」で当時14歳の柳楽優弥にカンヌの最優秀主演男優賞を獲らせた是枝監督ならではというべきか。

今作のテーマは、「家族とは何か」である。
血の繋がりか。
なぜ、血の繋がりがないと、ダメなのか。
絆か。
絆とは何だ。
愛情がないと駄目なのか。
金ではダメか。
依存では足りないのか。
そこで得られた束の間の幸せは、家族かそうでないかとは、何の関係もないのか。
家族かそうでないかは、誰が決めるのか。
法か。社会か。行政か。
それを構成する一人一人が決めてはいけないのか。

今作は、問いに対して、一つの答えを押し付けることはしない。
それぞれのキャラクターが出した答えを提示するだけだ。
中でも、祥太の出した答えは興味深い。
子は親を選べない。
ただ与えられた環境の中で、現実と闘うしかない。
その哀しさ。
子は親を愛したい。
それがどんな親であっても。
そのやるせなさ。
そして、いつか、子は親の元から飛び立つ時が来る。
最終盤のバスのシーンにおける祥太の心情を思いやると、なんとも言えない気持ちになる。

今作は社会の期待する枠から、はみ出さざるを得なかった人々を描いた作品である。
そうした人々を、通常、法や社会は救わない。
黙殺し、時に断罪するだけだ。
もともと実在の事件にインスピレーションを得た作品であり、強い社会批評性がある。

10年代の日本映画を代表する傑作。
是枝監督には更なるご活躍を祈念申し上げる。