りっく

天才作家の妻 -40年目の真実-のりっくのレビュー・感想・評価

4.0
ティムバートンの「ビッグアイズ」に似ている話であるものの、本作はグレンクローズの繊細な演技を柱に、派手ではないが台詞回しや回想場面のタイミング等々、隅々まで気配りが行き届いている丁寧な演出によって、まるで磁石のように喧嘩と抱擁を繰り返してしまう夫婦という不可思議な存在の普遍性を提示してみせる秀作。

特にクローズの演技は見事の一言に尽きる。略奪婚のような形で夫と結婚した罪悪感や後悔の念。読んでもらうこと以上に書き続けることで飢えた魂を潤していると自分に言い聞かせる日々をそうして熟年まで過ごしてきた中で、最高の栄誉によって日陰の自分が認められたことによって生じる承認欲。

彼女はそんな内面を牽制球、変化球、そして直球と巧みに言葉を投げ分けながら、内助の功として、そして女房役として、作家であり社会から認められた1人の女性である自分を抑え込もうと葛藤する。その複雑な内面が垣間見えるスリリングさが物語の推進力となり、また深みのあるキャラクターとして立ち上がることで、キャラクター描写が浅いと指摘される作家としての夫からも一本立ちすることになる。

また彼女が中心にはいるものの、才能ある女性を妻に持った夫、同じ道を歩んでいる息子、彼女の正体に迫ろうとする伝記作家など、周囲のキャラクター描写も非常に丁寧で、有機的に作用することでグレンクローズのキャラクターがより一層立体的に浮かび上らせることに成功している。
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