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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのHrtのレビュー・感想・評価

4.2
クエンティン・タランティーノの映画愛もここに来て究極形を迎えたというか、ついに彼の育ったLAはハリウッドの街を舞台にするところまで来た。
こうなると彼がかねてから明言している「10作品で長編映画監督を引退する」が現実味を帯びてきた。
ただ個人的にはこの作品(9作目)で彼が長編映画から姿を消すとしても納得のいくものになっていると強く感じている。
プロモーションにおける数々のインタビューの中で興味深かったのは、本作がタランティーノにおける『ROMA/ローマ』の様な記憶の映像化という側面を持っていること。
彼は生まれはテネシー州で、本作で描かれた69年当時は6歳。
引っ越し先のLAが思い出の地となるのはその時点よりまだ先の話だろうが、現在の視点を持って撮ることで十分に補完している。

そのハリウッドの案内人となるのが3人の主役だ。
それぞれが生活圏を動くことで街並みだけでなく当時のハリウッドの風潮なども垣間見れる。
時折り自分自身を滲ませながらリック・ダルトンの繊細さを表現するレオナルド・ディカプリオの演技には可笑しさがありながらも実際に彼と同じ境遇で消えていった当時の役者たちへの鎮魂の意味も持っている。
TVドラマのスターで映画へとステップアップしようとしたものの失敗に終わり、そこからは単発ゲスト扱いに甘んじている旬を過ぎた役者というのは今現在もそうだがハリウッドの諸行無常を表しているし、そこからやがて人気的に全盛を誇るようになるマカロニ・ウェスタンへと鞍替えするのはまさにその時代のスターの動きと重なる。

一方の新進気鋭、シャロン・テートの順風満帆さは確信的に対比させられる。
テート事件を下地にしているのでもちろんシャロン・テートが絡んでくることは大前提の作品だ。
だが観ていくとシャロンパートにはなんのストーリーもエモさもない。
彼女の天真爛漫さや華やかな私生活などが挟み込まれるのみに留まっている。
そしてそれはラストを観て納得。
なにせシャロンとは直接関わりのない話だったからだ。
タランティーノが彼女を60年代末のツァイトガイストと呼ぶように、ハリウッド暗黒期の光として生きていてほしかったのか。
分からないが、あのまま彼女がハリウッドで生き続けていたら一体どんな世界になっていたのだろう。

カーステレオから流れるラジオや音楽、それがエンジンを切ると同時にブツッと途切れる音。
一挙手一投足にノリは完全に支配され、その中でただどっぷりと浸るのみ。
それがこの上なく心地よかった。
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