TAK44マグナム

クリード 炎の宿敵のTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

クリード 炎の宿敵(2018年製作の映画)
3.8
自分が何者かが分からなくなるのが怖いんだ。


アポロ・クリードの息子アドニスがロッキー・バルボアのコーチングを受けてプロボクサーとしての道を駆け上がった傑作「クリード」待望の続編。


ついにヘビー級世界チャンピオンのベルトを手にしたアドニスは、結婚、そして妻の妊娠と正に人生の絶頂にいましたが、その前に立ちはだかる敵が現れます。
かつて、偉大な父であるアポロをリングで葬ったイワン・ドラゴの息子、ヴィクターが挑戦を表明したのです。
ドラゴ親子はイワンがロッキーに敗れて以来、ロシアの恥として蔑まされ続けており、汚名挽回のために徹底的に鍛え上げられたのがヴィクターでした。
試合に反対するロッキーと袂を分かったアドニスは挑戦を受けるのですが・・・


「ロッキー」で感動して、その後続いた続編で違和感を感じた人の気持ちが少し分かるような気がしました。
これなら、一作目で終わっていても、それはそれで良かったかな。
「自分がクリードであることを証明したい」という思いで戦うアドニス、そしてそれを今は亡き盟友アポロに変わって父親のように支えるロッキーの師弟コンビに感動したわけですが、ライアン・クーグラー監督の手腕がいかに優れていたのかが浮き彫りになったような、それほど監督の力量の差がはっきりと感じられました。
(もしかしたら、この続編そのものがとても難しいものだったのかもしれませんが・・・)
物語はロッキーシリーズの伝統というか、そのまんまな感じである意味単純なんですよね。
チャンピオンになって、人生の勝者になったアドニスには失うものがたくさん出来ます。
一方、敵側には失うものなど何もないので強い。
で、敗戦からの再戦。
再起をかけた特訓。
まるでロッキーシリーズをなぞったような展開。
アドニスならではの背景や葛藤する姿も描かれますが、どうにもエモーショナルな成分が足りていないので、アドニスに関してはあまり泣きポイントが無かったです。
赤ちゃんのあやしに困ってからの、サンドバックを打つ場面は「おっ!」と思わされましたが、何かこう、「やらねばならないんだ!」という強い気持ちが伝わりにくかったような気がするんですよね。
ロッキーが再戦に前向きになるのも、男として気持ちが分かるからなのでしょうけれど、いまいち伝わるものが無かった。
「アポロの死」という、前提となる事件を覆すほどの強い感情が表現できていたかというと、そんなでもなかったんじゃないかというほど抑揚が感じられず。
お母さんの、アポロの死を言い訳にするなっていうところは良かったですが、(子供も生まれたにしては)奥さんがかつてのエイドリアンほどの感動を与えてくれないのが今ひとつでした。
「勝って」というセリフは、エイドリアンの方が100倍響いたんだけれどな。
でも、歌手という設定は決戦の地でも活かされて、そこはエイドリアンには無理な部分だし、夫婦が一緒に戦うという絆が感じとれましたよ。

本作は多少、散漫にも感じられますが、これは敵となるドラゴ親子のキャラクターが、やはり強烈だからというのもあるでしょうし、実際、尺も使ってドラゴ側を描いています。
わざわざ、過去に色々あった元妻のブリジット・ニールセンをスタローンが担ぎ出してまで、ドラゴ親子の置かれた境遇をクローズアップするのです。
ドルフ・ラングレンってこんなに演技派だったっけ?と、普段ポンコツな映画でばかり拝見しているので驚きました。
ブリジット・ニールセンが登場した時の何ともバツが悪そうな表情や、終盤での息子を想う姿に涙がでましたよ。
まさかドルフ・ラングレンに泣かされるとは!
今後一切、そんなことは無いのでは、と思うと貴重な体験だったのかもしれません。

そんなこんなで、ドラゴ側にも事情があるし、これはかなりクライマックスは盛り上がるのでは?と期待に胸を膨らませたのですが、決定的にファイトシーンの撮り方が前作より劣っているのがアリアリで、ボクシング自体はリアル風なものの、カメラワークや試合展開が昔のロッキーシリーズの域から脱していないんじゃないかぐらいに進歩が感じられず、そのせいもあってかエモれませんでした。
ドラマパートも平板だったけれど、ファイトシーンも普通すぎ。
ヴィクターがパワー一辺倒で、かつてのドラゴやクラバー・ラングみたいでした。


ちょっと今回、ディスりすぎているような気もするのですが、それだけ期待が大きかった反動というか、前作が良すぎたのかな。
もちろん、泣けたんですよ。
主にロッキーに関してで。
スタローンが、これでロッキーともお別れっていうぐらい、ロッキーというキャラクターに決着をつけています。
試合後にアドニスにかける言葉。
その直後の後ろ姿。
そして、意を決して、思い描いてきた事にチャレンジするラスト。
ただ、○○○をすることがこんなにも難しく、でも一度してしまえば・・・という、ロッキーの終着点はあまりにも優しさに満ちていて、後悔も多々あった彼の人生が、「それでも幸せだった」と思えるラストを用意してくれた事に関しては、ただただ感謝しかありません。
スタローンは最高でしたね。

アドニスもラストシーンはグッとくるものがあったので、もっとパーソナルな部分での肉付けをうまくやってくれたらなと思いました。
ロッキーとドラゴに押されて、主人公としてイマイチ、ぐいっと前に出られなかった感があります。
実際に戦う相手であるヴィクター役のフローリアン・ムンテアヌが演者としては素人に近いのもあって、「エイドリアン」でのロッキーVSドラゴの舌戦ほどの、アドニスVSヴィクターのドラマが生まれなくかったのもあるのかもしれません。
軽量シーンで、もっとぶつかり合って欲しかったな。
それを踏まえての、再戦前や再戦後のやりとりも欲しかったのですが、どうにもアドニスとヴィクターの距離がアメリカとロシアほどに遠く感じられてしまいました。


総じて悪くはありませんが、前作の壁はあまりにも高かったんだな、という出来具合に、このシリーズに自分が何を求めているのかがより浮き彫りになったような気がします。
それは、やはりエモーション。
個人的に、「ロッキー2」を観たあとの「ロッキー3」みたいな気持ちになりました。
いや、「ロッキー3」は好きなんですよ。ただ、2作目からの流れで3作目を観ると、なんか違う感もあるんですよね。

今回、エンドロールの途中で寝てしまったほど、余韻が感じられなかったのが本当に残念でした。
ただ、「ロッキーの弟子(アポロの息子)VSドラゴの息子」という「ロッキーVSドラゴ」の懐かし代理戦争みたいな図式の、変にエンターテイメントした映画、つまりは「ロッキー4」のような作品にはなっていないのは、やはり評価しないとならない重要なポイントじゃないでしょうか。
その点がしっかり踏まえてあるので陳腐にならずにすんでおり(マイケル・B・ジョーダンたちの熱演もあって)、「クリード」シリーズとして、前作で培った品格は保たれていると思います。

更なる続編があるのかどうかも気になりますが、作るなら「ロッキーが亡くなって、もう彼の言葉に頼れない」という状況で作って欲しいですね。
ものすごく寂しいけれど、そこからが真の「クリード」なのだと思います。
アドニス・クリードの一枚看板でこそタイトルに偽りなしなのだと、ロッキーの背中が語っているようでした。


劇場(シネプレックス平塚)にて