ギャス

バイスのギャスのレビュー・感想・評価

バイス(2018年製作の映画)
3.4
重苦しく難しいことを愉快に、かつ辛辣に。
途中思いもかけない、ひとをくった演出に何度か笑った。
ふざけているようで、鋭い突きを繰り出す。

しかし、権力というもの、特にアメリカ合衆国の権力というものの恐ろしさが明快に描かれていて、
よく関係者たちの存命中にこんな映画を作ったなと感服。
タイトルも、副大統領の副と悪徳という2つの意味があり、堂々とこのタイトルをつけたところも気が利いている。


エピローグ的に「2200通の削除されたメールがある」など隠蔽の過去が明らかにされたが、
今の日本だとそういう類の数すら明らかにされないのではないかと情けない思いも抱いた。

ネタバレ
彼は権力より娘を取り悠々とのちの人生を過ごした、と、いったん映画が終了する演出に笑ったが、ここで終わっておけば良かったのにという作り手の想いを汲み取った。
擬似餌を使う川釣りのシーンが何度も挿入されるが魚を釣り上げることはなかった。彼はこれまでの人生に何も後悔はないと言い放ったが、いったい何を手に入れたのだろうか。
ナレーションの男の半生とともに、彼の心臓が提供されたことが明らかになるところ、彼が過去にアフガニスタンに行っていたことはあまりにも皮肉だ。
その心臓を使って彼は何を成し遂げたのか。生き延びたあと、娘のメアリーを否定するような立場を取った彼は、つまり娘よりも権力を取った。その心変わりは、彼が心臓を取り替えたシーンとも重なって、結局娘の心(ハート)の方は壊してしまったのかとまた一層皮肉だった。
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