イホウジン

バイスのイホウジンのレビュー・感想・評価

バイス(2018年製作の映画)
3.7
「映画」の存在をとことん使い尽くした奇作。
影の主役は我々観客である。

映画内で起こる事象(ウォーターゲート事件,911,イラク戦争等)は当然本当に起こったことだが、チェイニーに焦点を置き映画にすることで、意図的にどこか関係のない所で起こった架空の出来事のように錯覚させ、まさに我々の社会の現状を客観視出来るような仕掛けになっている。それどころか、チェイニーの心の弱さなどの場面を挿入することで、心なしか共感することさえもした気になる。
映画の仕組み自体を使った演出も見どころ。中盤の展開はそれが光っている。
ところが、(本当の)エンドロールの中盤で挟まる映像のラストで全てが突き放される。ここでは某人気娯楽映画が引用される訳だが、果たして我々は「架空のもの」として笑うことができるだろうか?映画=楽しむもの という方程式に甘んじて(社会派映画でさえも)どこか遠くの話だと思い違えてないだろうか?主権者としての意識は何処へ?そんなことを考えさせられた。

正直言ってストーリーは断片的である。扱う内容が多いということもあるが、現代アメリカ史を俯瞰するだけで、チェイニーのキャラクターがいまいち薄かった気がする。もともと描く気もなかったであろうが、心理状態の表現も雑。全体に散らかりが見受けられた。敵と味方の区別も強烈すぎて違和感を覚えた。特に子ブッシュがさすがに無能に描きすぎていないか?という印象。リアルを追求したいのか劇映画として観客を楽しませたいのか、方向性がブレまくっていたのが残念だった。
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