かなり悪いオヤジ

ラスト・ムービースターのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

ラスト・ムービースター(2017年製作の映画)
3.4
主役よし、設定よし、出だしよし。しかし、コメディからヒューマンドラマへのシフトチェンジを誤ったがために、アル・パチーノ主演の名作『セント・オブ・ウーマン』になり損ねた1本だ。60~70年代のセックス・シンボルとしてならしたバート・レイノルズ自身のバイオグラフィと≒なヴィック・エドワーズ。学生時代はアメリカン・フットボールの選手、『ロンゲスト・ヤード』なるフットボールムービーにも主演し、『グレート・スタントマン』で決死のスタントマンを演じたのもこのバートである。因みに結婚離婚を繰り返し自己破産したバートの死因は急性心不全であった。

ナッシュビルの映画オタクが立ち上げたなんちゃって映画祭に招待されたエドワーズ。過去に招待されたハリウッドのビッグネーム(ジャック・ニコルソン、ロバート・デニーロ、クリント・イーストウット)に連れてノコノコと出掛けて来てみれば、映画祭どころか、場末のバーで行われている単なるファンの集いだった。主催者の男に「あいつらも来たんだろ」と尋ねたところ「招待したとはいったが、実際に来たとは言っていない」とつれない返事。要するにこのエドワーズ、まんまと騙されたのである。

冒頭愛犬を病気で失ってからここまでの展開は実に落ちぶれたスターあるあるでノレたのだが、会場となったバーで泥酔後、映画の事なんかまるで興味のない主催者の妹リル(アリエル・ウィンター)と思い出を辿る旅に出かけるシークエンスがなんとも陳腐。とにかくこのヴィック、若い頃デニーロやイーストウットみたいなイメージチェンジに失敗したことを、いまだにくよくよと悔やんでいるのである。それを精神安定剤中毒のちびデブ娘リルに慰められたりするものだから、映画後半は終始白けっぱなしなのだ。

『セント・オブ・ウーマン』のアル・パチーノは(自殺願望はあったものの)孫の前では無頼を貫き通し、退学の危機に直面していた孫を救うため炎の大演説をコチコチ教師の面前でぶちかますシークエンスが感動を呼んだ。しかし、本作でバートと共演したアリエル・ウィンターが、NHKの学園海外ドラマに出演しているジャリタレのように影がなさすぎるのである。せめてリルがゾッコンのダラチンBFをエドワーズがぶちのめすシーンの一つや二つ入れてもよかったのではあるまいか。

デヴィッド・リンチ風の幻覚ショットやプライベートでもお友達のブルース・ダーン(ローラ・ダーンの実父)との爺話に何ともいえない味があっただけに、大変惜しい気がするのである。幻覚の中で若い時の自分を諭す、なんてことはトム・ハンクスあたりに任せておけばいいのであって、法を破ることにひたすら命をかけてきた往年のアウトローがすっかり去勢されてしまった姿など誰も見たくないはずなのである。バートには是非とも「時が自分を追い越して行く?ハッ!そしたらまた追い抜いてやるだけさ」と鼻で笑って欲しかった。