マーチ

ヘレディタリー/継承のマーチのレビュー・感想・評価

ヘレディタリー/継承(2018年製作の映画)
4.4
コッ…コッ……コッ…コッ………コッ…コッ…


*町山智浩さんのトークショー付き上映回にて

【レビュー🐦】

《現代クラシックホラーの名作誕生》

※ネタバレはコメントの方でたっぷりと語っているので、ご鑑賞後に是非。

やたらと予告やポスターで今世紀最高のホラーなどと煽っていますが、その言葉に偽りありません! 存分に期待して観に行って大丈夫だと思います。その期待を軽く上回る驚きがこの映画にはあり、恐怖がぽっかりと口を開けてあなたの事を劇場で待ち受けているので。

全てが伏線、何ならポスターや予告も伏線だし、ファーストカットから既にラストのフィナーレへ向けた伏線になっているので、注意深く1つ1つの要素を見落とさないように記憶に留めつ観なければいけない。そして、どれがどの伏線だったのか確かめる為にも、確実に2度目が観たくなる(再鑑賞したくなる系映画としてはニュアンス的に『メッセージ』と近いかも)。それほど用意周到に罠や仕掛けが施されており、5年もかけたという脚本の秀逸さもさる事ながら、この監督は演出もピカイチ。R指定がかかるほどの強烈なゴア描写もなければ、スケアジャンプも無い、日本の若手監督(小林勇貴、阪元裕吾)が手掛けていたら過剰な程にゲロを吐かせているであろう場面でも一切ゲロは出ない。笑 それなのに、新しくもどこか懐かしさすら感じる所謂クラシックホラーに通ずる、見えるようで見えない演出だったり、トリッキーな演出(全裸、ヘドバンなど)だったりを卒なく、それもかなり効果的に用いていて、それだけで並々ならぬ恐怖や居心地の悪さを煽られる(演出できている)のだから今後もこの監督のことを注目していかざるを得ない。

しかもこの監督、相当なシネフィルと思われるほど今作だけで凡ゆる過去の映画にオマージュやリスペクトを捧げている。筆頭は『エクソシスト』『ローズマリーの赤ちゃん』だが、トニコレの顔芸は完全に『シャイニング』のそれだし、鳩をチョンパするくだりは明らかに『白いリボン』で、実際に監督にインタビューした町山さん曰くベルイマンの『叫びとささやき』や溝口健二の『雨月物語』、新藤兼人の『鬼婆』、トリアーの『アンチクライスト』、ロバート・レッドフォードの『普通の人々』もあるらしいし、パンフレットにはそれら以外の作品も載っているし、個人的には『オーメン』『サイコ』の影響も感じられた。とにかく枚挙にいとまがないほどの映画が参考になっており、全て調べ始めたらキリがない。それら影響元を己の感性で纏め上げ、作り上げられた映画が良くない訳がないじゃないですか!ってことですよ。笑 アリ・アスター監督は恐らくシネフィルインテリ、言うなればホラー界のデイミアン・チャゼルの登場ですよ!笑 しかも彼の作品は狙ってやってるイヤらしいドヤ感が一切感じられないし、インテリ特有の見透かしたウザさもなくて、私は今作だけで彼の世界観に惚れ込んでしまいました。笑(インテリといっても学歴の話ではなく、ここでは演出的精度のことです。ほんとにインテリなのかもしれないけど…)

カメラワークの斬新さや、夜から朝へ、朝から夜へとパチっと切り替わる編集の仕方の映像的面白さ、不快で端正に構成されたスマートな音響が人の不安を煽りに煽ってくるし、定期的にショッキングで目を疑うほどパンチのある映像が差し込まれるので本当に恐ろしいし、気味が悪いったらありゃしない。

キャストの演技も全員素晴らしいのですが、やはり誰もが記憶に媚びり付いて離れないのはトニ・コレットの怪演ですよね。笑 顔芸のインパクトがとにかく半端ない!笑 オスカー有力らしいですが、これで受賞したら笑ってしまうわ! いや、演技自体は大変素晴らしんですよ、あまりに凄まじすぎて笑うしかないほど素晴らしい。ホラー描写に対するリアクションの取り方なんて芸人の領域で、トニコレの顔芸とリアクション芸が交互に楽しめるという意味では間違いなく最高な映画だったと思います。笑

あと後半の主人公と言っても過言ではないムロツヨシことアレックス・ウルフくんの怪演もお見事で、反射したガラス越しのニタァは非常に狂気的でゾクっとさせられましたし、その後の異常な変貌ぶりも含めて圧巻の演技でした。

ネタバレ避けてよくここまで書けたなと自分でも驚くのですが、それほど様々なエッセンスが渾然一体となったホラー映画界の歴史的快挙作品なので筆が進むのも当然といえば当然なのかもしれません。皆さん是非とも情報を極力入れずに、今すぐ劇場へ向かってください! 怖すぎるので、ホラー苦手な人は観なくてもいいです!笑 ただ今の時代に生きていて、ホラーファンを自称するなら、この作品を劇場で観ていないと仲間外れにされることは必至でしょう。笑 (→ホラーファンは優しい方ばかりなので、そんなことはありません。笑)

とにかく今作は、現代でクラシックホラーを作ってしまった傑作だと思います! 『エクソシスト』や『ローズマリーの赤ちゃん』たちと並んで陳列されていても全く違和感なく、見劣りしない今世紀最高峰のホラー映画を是非ともお早めに劇場で味わいましょう!!

【p.s.👑】
ホントは色々書きたいんですけどね〜、何せ全てが伏線で、それら全てが繋がった上でラストのフィナーレを迎えるので、そのフィナーレでカタルシスとただならぬ絶望をまだ観ていない人に味わってもらうためには、お口チャックまたはお口ミッフィーちゃんにならざるを得ないんですよ。笑

皆さん絶対にネタバレ注意!
複数鑑賞に来てて周りの席でネタバレしてるような配慮のカケラもない奴にも注意!!
そんな奴は首チョンパしちゃえ!!!(私がサイコな訳ではなく、映画を観れば分かります。笑)

まさしくホラー界に新鋭監督誕生。監督の名前を借りて言うなら、「アリ/スター誕生」ですよ! 失言です、失礼いたしました。笑

そんなことより、今年はまさしくホラーの年と言えるでしょうね。まだ来週公開のJホラー『来る』も控えていますが、なんと言っても米ホラーの躍進がハンパなかったなと思います。ほとんどが秀作で、ホラーファンとしては既にとても充実した日々を過ごさせていただきました〜、果たして…来年のホラー映画界はどう転び、どのように発展していくのか…乞うご期待!!

【補足】
町山さんのトークショーで、監督自身の家族に実際に巻き起こった不幸がこの作品を製作する足掛かりになったということを聞いて、プライベートなことなので監督自身多くは語っていないらしいですが、そうだとしたらあまりにも悲しすぎる。エンターテイメントとして作品にパッケージ化して昇華することで、監督にとって今作を作り上げる過程がある種セラピーのようになっていたそうです。

あとスタッフロールの血文字の継承も世界観を表していて素晴らしかったですし、監督曰く深い意味は特に無い単なるギャグだというエンディング曲の「Both Sides Now」も、あのオチの後だと一周回ってただただ恐ろしいですよ… 笑


【映画情報】
上映時間:127分
2018年/アメリカ🇺🇸
監督・脚本:アリ・アスター
撮影:パヴェウ・ポゴジェルスキ
編集:ジェニファー・レイム
ルシアン・ジョンストン
音楽:コリン・ステットソン
出演:トニ・コレット(製作も兼任)
アレックス・ウルフ
ミリー・シャピロ
ガブリエル・バーン(製作も兼任) 他
概要:家長である祖母の死をきっかけに、
様々な恐怖に見舞われる一家を描い
たホラー作品。
マーチ

マーチ