ぐるぐるシュルツ

5時から7時までのクレオのぐるぐるシュルツのレビュー・感想・評価

5時から7時までのクレオ(1961年製作の映画)
4.2
自分のことが全てじゃないって思えたら、
もう怖くない。

〜〜〜

享年90歳にして今年の春先に亡くなってしまったアニエス・ヴァルダの代表作の一つ。
今年春先映画館で見たけれど、しっかり見直したくて、U-NEXTにて鑑賞。

まずタイトルからして洒落ていますよね。
その名前通り、病の宣告を待つシャンソン歌手の5時から7時までの2時間を追いかけつづける作品です。
病に怯え、孤独や不安に駆られる彼女は、
終始ボロボロです。
一瞬光が射しても、すぐに絶望が訪れる。
でも、最後の10分で、
それがぐるっと変わっちゃう。
それを目にする、2時間。

〜〜〜
キーワードは
「鏡」と「迷信」です。

これでもかってくらい鏡やガラスにクレオは映り込みます。(時たまカメラも写ってしまいますが、それでも構わないってことは、相当こだわっているみたい)
人目を惹くほどの美貌を持つクレオは、
自身が綺麗に美しく見えることが、
どこかで心の支えになっています。
散々泣いた後も、鏡を見て、なんとか取り戻す。
皆に見られる路上では、気丈に振る舞うが、身内になると途端にか弱くなる。
「鏡」は正にその象徴だと感じました。

けれど、その「心の支え」は実は諸刃の剣。
心理対象はいつでも自分に向くために、
不安になり孤独になり固執することになる。
誰彼の善意を届かない。
それでも自分を信じられればまだいいのだけれど、
病によって身体から裏切られた彼女には、それはできない。そして「迷信」に頼る。
ますます不安になる。
この負の連鎖が5時から6時半までのクレオ。

でも最後、気のいいお喋りな休暇軍人に会ったクレオは、少しずつだけれど、くっきり変わります。
「愛されることを愛してる人が多すぎる」なんて言葉は彼氏が時折訪れることに不平不満をこぼすクレオには少なからず響いたりする。
迷信だって笑い飛ばしてくれる。
不安な検査の前も一瞬にいてくれる。
それでいて、
草木や人たちに目を向ける彼を見ているうちに、
クレオは自分のことなんて考えなくなる。
鏡を見なくなる。
そしたらもう怖くない。

「健康は美」「恐れは美」
そんな言葉たちの狭間にいたクレオが、
ぱっとその隘路から抜け出ていく。
まだ夏が始まる前の陽の光の中。
白黒でも鮮やかな光。

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途中出てくるゴダールとアンナは最高に可愛いし、人たちや街をぐるぐる撮り回すのもなかなか愉快。
唯一のカラーシーンである、
最初のタロットカードをバックに
クレジットが挿入される場面は
唸ってしまうほどスタイリッシュ。
センスが跳ね回る映画でした。