にしやん

グッド・ヴァイブレーションズのにしやんのレビュー・感想・評価

3.8
1970年代にベルファスト・パンクバンドを世に送り出した北アイルランドのレコード店およびレコードレーベル「GOOD VIBRATIONS」の創設者、「ベルファスト・パンクのゴッドファーザー」と呼ばれたテリー・フーリーの半生を描いた映画や。わし殆どパンク・ロックのことは分からんねんけど、実話ベースでパンクロック界では凄い人やということで鑑賞したわ。

キリスト教とイスラム教、ヒンドゥー教とイスラム教との対立もんの映画はしょっちゅうやけど、この北アイルランドの当時のカソリック(IRA)とプロテスタント(UVF)というキリスト教もん同士の対立もエグイもんやな。元々は隣人やったり友達やったはずの人等が血で血を洗うテロを繰り返すんやから。死者は3,000名以上やから、殆ど戦争やな。普段の生活と戦争とがほんまに隣り合わせにあるんが映画観てて物凄い実感できて、正直ぞっとしてもたわ。

パンクロックが好きやとか嫌いやとかそういうんは関係なく楽しめる映画やな。それにしたかて、このテーリー・フーリーっちゅうオッサンは生き方自体が「パンク」や。めちゃくちゃおもろうて、すごい奴やわ。このオッサンが住んでいたんが北アイルランドのベルファスト。当時の北アイルランドはカソリックとプロテスタントの宗教対立による武力紛争の真っただ中で、オッサンは音楽への愛と平和への願いが高じてレコード店「グッド・ヴァイブレーションズ」を開くんや。ほんで、たまたま聴きに行ったライヴで、それまでの人生で聴いたことあれへん音楽を聴いて衝撃受けて、そのままレーベル設立に邁進すんねん。ベルファスト・パンクのレコード誕生や。今湧きおこったばっかりの、訳のわからない音楽を世に知らしめるために行動し始めるんや。それがとにかく素晴らしいわ。それで、だんだんとオッサンの周りに優秀なバンドが集まり始めて、オッサンかてノリノリやわ。初めてBBC(?)のラジオで自分のレーベルのレコードの曲が流れたシーンは、わしかてめちゃくちゃ痺れたで。泣けた。最高や。それと、誰か知らんエライ人に、ジャズかなんかのレコードをプレゼントしながら、融資の交渉をしてるシーンの繰り返しとかも観てて楽しいわ。

それにしたかて、このテリー・フーリーっちゅう奴は思いついたら脇目も振らんと猪突猛進する情熱の塊みたなオッサンなんやねんけど、逆に言うたら現実がいっこも見えてへんドアホ野郎でもあんねんな。おのれの商売のことやとか、儲けのことなんかいっこも考えてへんさかい、店やレーベルの経営はずっとめちゃくちゃや。そんな調子やから、奥さんや親友やバンドたちとの関係もズタズタになったりもするしな。それでもこのテリー・フーリーっちゅうオッサンは、へこたれへんで。ここまできたら、許すも許さんも、底なしのドアホや。どんだけ底なしのドアホかは映画を観て面白がってほしいわ。終盤のコンサートの舞台裏でのバカさ加減かて、もう限界とか超えてるし。一事が万事そんな調子やから、映画を観ている間、わし等はこのオッサンのサクセスストーリーに喜んだり、ドツボにはまってんのを心配したりっちゅうのの行ったり来たりやったな。

まあ、実際は何も解決してへんねんけどな。オッサン、ノリノリなだけで。それでも、このオッサンのことは何か憎まれへんわ。愛すべきドアホやな。事の善悪は置いといて、こんだけ広い世界やねんから、こういうアホでぶっ飛んでるオッサンが一人くらいおったかてええんとちゃうかな。エンドロール直前のテロップが最高に笑える。殆どボケとツッコミの世界やで。「オッサン、アホかいな?一生やっとれ」や。
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