うえびん

フード・インクのうえびんのレビュー・感想・評価

フード・インク(2008年製作の映画)
3.7
より大きく、より早く、より安く
→小さく、ゆっくり、適正な価格で

2008年 アメリカのドキュメンタリー作品

今年1月のダボス会議で、シュワブ会長やビル・ゲイツから突然飛び出した昆虫食(食用コオロギ)の話。コオロギなんて食べたくないし、何で今のタイミングでこんな話が出てくるのか?違和感しかない。

さらに、2021年からアメリカ国内の食品工場で大規模な事故が次々に発生しているそうだ。この裏に何があるのか。そのヒントを探ろうと本作を鑑賞。

1930年代、ドライブインの急増とマクドナルド兄弟の登場がファストフード業界を生む。ファストフード業界は巨大な買い手となり、巨大な売り手を求め始める。

店での仕事は、繰り返しの単純労働となり、安い賃金で大勢の人が雇われる。

鶏肉の加工販売を手掛けるタイソン社。大企業は、通常は生育に3ヵ月を要する養鶏を49日で育てるよう養鶏農家に無理強いする。鶏は胸肉だけ大きく育ち、脚の骨や筋の生育が追いつかず、自らの身体を支えられない奇形の状態で屠殺され食肉に加工される。

「農家は大企業の言いなりで奴隷」だと、農家の人は嘆く。

巨大な食肉加工工場、巨大な集中家畜飼育場の仕事は、繰り返しの単純作業となる。世界最大の食肉処理工場スミスフィールド社では一日に32,000頭の豚が処理される。その無情な世界に、生き物の命を奪い、その命を人が頂くという慈悲の念は皆無だ。

O-157の発生は、草食の牛にコーンの飼料を与えた結果。FDA(アメリカ食品医薬品局)も大企業に支配され、「アメリカ国民は食の安全管理システムを失った。」と嘆く。

企業は、より大きく、より早く、より安くを追求し続け、「競争相手は打ち負かす」と豪語する。

北米自由貿易協定(NAFTA)は、メキシコの農業を破壊し、仕事を求めたメキシコ移民が不法にスミスフィールド社で働く。アメリカの移民局は大企業と結託し、不法移民を黙認する。労働者は生きた機械となる。

種子と肥料のモンサント社も然り。マイクロソフト社と同じ市場の独占。従わない者を司法に手を回してねじ伏せる。

絶望的な世界、ディストピアが現実であることにあ然となる。何かが狂っている。

食という、人間が生きるための根幹を操作しようとする人々。植物や動物、自然の摂理までも人間の都合に合わせて科学の力で操作しようとする傲慢な人間。ここに登場する人たちが信仰するのは“パワー”だ。大きいことがバワー、システムを中央集権化することがパワー。力による支配、そういった信仰だ。

エンディングの歌が「変革を心から求めよう」と唱えていた。心から求めるためには信仰を変える必要があると思う。

小さく、ゆっくり、適正な価格で。

食は、その土地の祖先から永く受け継がれてきた文化の最たるもの。コオロギなんて絶対に食べない。
うえびん

うえびん