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母さんがどんなに僕を嫌いでものNMのレビュー・感想・評価

3.3
とても切ない。母からどひどい仕打ちを受けても母を求める子どもの気持ち。
ストーリー自体は複雑ではないので素直な気持ちで観られる。
劇団が絡んでくるため歌うシーンが多いが、その分他の演技は抑えめで渋い。

たいじの母は昔から度を越して冷たいことがあった。そして美人でプライドが高く話が上手くて、周りの主婦を牛耳っていた。
両親は喧嘩が絶えず、間に挟まれてそれを取り持つようなこともあった。
しかしたいじは何をされても自分が悪い、母にはどこにも行かないでほしい、と思いひたすら耐えていた。
ある日家族で諍いが起こり、たいじは一年間施設に預けられたのち、両親は離婚、引っ越したあと母はますます不安定になり、暴言も暴力も増えた。
母はついに刃物を持ち出し、たいじも限界を迎え17歳のとき家を出て住み込みで工場で働いた。
実直に生きていたが、自己承認が非常に低く、笑顔の裏はいつも孤独だった。
会社に入り、趣味で劇団にも入ると、心を許せる友人ができ、初めて自分という存在を認めることができた。

友人たちからそのままでは後悔すると背中を押され、叔母に会いに行き話を聞いてみると、母は幼い頃から虐待を受けていたことを知った。
たいじは翌日から母の食事を作りに通った。
母は再婚相手を亡くし病気もあり多額の借金もあったが、見栄っぱりの母は意地を張ってばかりで助言など聞かない。
たいじはそれでも諦めない。もう母と向き合うことから逃げない。
たいじは母を説得し分かり合うことができるのか……。


たいじ役大河の演技が素晴らしい。大げさすぎず、忍耐強い性格が伝わってくる。この人は作品によって本当に人相が変わる。
憎しみに支配されず、母に「愛されたい」という思いを「愛している」という感情に塗り変えた。仕事のことで一旦闇落ちしたが友人のお陰でそれも救われ、母のように悲しみと憎しみに支配される人生を回避した。

個人的には必ずしもたいじの対応が正しいとは思わない。逃げるときは逃げて良いと思っている。みんなここまで強くないだろうし、こんなふうに上手くいくことは稀だと思う。
しかしこれができたらどんなに素晴らしいことだろう。本当はみんなこうしたいはず。
憎しみ合わず、ゆるしあい、プライドを捨て、助け合って生きる。それがどれだけ難しいことか。

「理解は気づいた方からすべし。
ってか、理解する力のほうがある方が先に気付くの。」
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