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母さんがどんなに僕を嫌いでものamuのネタバレレビュー・内容・結末

2.5

このレビューはネタバレを含みます

これぞボーイズ・オン・ザ・ランなのでは!!!と思ってしまった。

理不尽に暴力をふるい、人間なら母親から絶対に聞きたくない言葉を浴びせられた上に、包丁まで持ち出し、とはいえ我が子、振り下ろすことなど出来ないと思ったが腕をバッサリ。おい、障害事件、殺人未遂で逮捕だよこれ。

それでも母親に愛されたくてプライドも何もかも捨て、何を言われても何をされても、一貫して「僕は母さんが大好きだよ。」と言い続けながら、努力を続ける主人公。甲斐甲斐しいを越えて、痛々しさ全開で進むストーリー。DV男に執着する女の話として置き換えたら、もうそんなやつ相手にしないで逃げな、と言いたくなる。

結局「血」なのかな、血という名の絆はここまでの執着を生むのかな。母親から愛されたいのは当然だけど、愛される努力を死にものぐるいでしなくちゃいけない子供なんて不幸でしかないし、それでも暴力しか返ってこないそんな親、子供の方から捨てても誰も責めたりなんかしないよと思ってしまった。目に入れても痛くないのが親にとっての子であり、世界中が敵になっても味方になってくれるのが子にとっての親なのでは、と、普通の、面白みのないことを言いたくもなってしまうほどに、余りに辛い物理的暴力に加え、精神が病んでしまうレベルの言葉の暴力オンパレードであった。ずっと苦虫を噛み潰したような顔をしながら観てしまった。

虐待系親子ものでは是枝裕和監督の『万引き家族』や、呉美保監督の『きみはいい子』などがあるが、虐待され続ける子供目線で幼少期から大人になるまでを追って行く見せ方は初めてかもしれない。原作未読な上に、この原作も実話を元にしているようなので、本当に信じ難いけれど、世の中には子を虐待する親が存在するのだなと心が痛くなった。そして『きみはいい子』で知ったことだけど、虐待されて育った人間が親になると、今度は虐待する側となり、それは「血」だ、とされていた。だから親になるのがこわいと。

今作の母親(吉田羊)は二人の子の親となり、一人目は女の子、二人目が主人公(太賀)で、跡継ぎを産めと相手の親?からプレッシャーをかけられて二人目を作ったけれど、その妊娠中に夫に浮気をされたことで二人目である主人公を産むことすら嫌で、、という話だったが、そうなるとこの吉田羊が幼少期に親から虐待されて育ったから自身が親になったら今度は虐待する側になってしまう説はちょっと道理が通らない感。お姉ちゃんには一切手をあげない、あげるのは主人公にだけ。また、夫に対しても常にヒステリックで言葉の暴力を連呼していたので、男というものに特別な執着をしているように見えた。幸せになるのもなれないのも、男次第みたいな。自分だけが大変で、自分だけが頑張っていて、そんなふうに思って、嫌なことは全部夫と主人公である息子のせい。母親としてだけでなく、人間的に最底だった。夫はともかく、息子はなんにも悪いことしていないのに。八つ当たりしました、自分の弱さから理不尽な言動をしてごめんなさいと泣き崩れながら刑事に連行されて欲しかったが叶わぬ思いでした。

冒頭でも書いたけど、これほどまでのボーイズ・オン・ザ・ランは無いのではないか。これがボーイズ・オン・ザ・ランなのではないか。と思った。

和訳の意味で言っているのではない。『ボーイズ・オン・ザ・ラン』や『宮本から君へ』でいうところのテーマ、男が自分の想いに真っ直ぐに突っ走る根っこの部分についてだ。相手は母親。産んでくれたにもかかわらずその自分に対して虐待を繰り返す母親の愛に一瞬でも触れたいがために自分を全部捨て、自分を全部使って、母親に、そして自分自身に向き合う努力をし続ける人生。なかなか真似できないよ、こんなの。凄いよ。

婆ちゃんが亡くなったとき、本当にいい人は早く去ってしまう泣、と思ったが、母親も早々に去ったため、いい人というわけでなくて、自分にとって大切な人は、という新たな認識に変わった。婆ちゃん…凄く素敵な人だった。婆ちゃんにこそ、大好きだよと言ってあげて欲しかったなあ。婆ちゃんが聞かせて欲しいと言った大好きだよに匹敵する言葉の連呼シーンも目頭が熱くなりましたが。

なんだろう、、感情移入は誰にも無くて、ただただ作品として見れたことをよし、とも思えるし、正直あまり心に残るものも無かった。

虐待経験の有無とか、そういうことではないのだと思う。だって是枝監督なら観終えてこんな感情にならないし。あれかな、吉田羊の虐待シーン、やりすぎましたかね。
とにかくもうむかついてならなかった。

それから観終えて調べ直すまで、白石隼也を泉澤祐希と勘違いしてました。似てますよね?

あと終始思ったことは、姉ちゃんの薄情さ。結局女は男を自分勝手だと責めながらよっぽど自分可愛さから理不尽で嫌な生き物だなという。弟に意地悪はしないけど、味方にもなってくれなかった姉はサイレント虐待だし、どうかと思うよ。この姉が親になったらどうなるのかね。

胸くそ悪いことしか書けないようなことがテーマとなっている作品ですが、太賀目当てで観たわりに、良かったのは子役の子でした。子供時代のタイちゃんと婆ちゃんのやり取りだけがほんわかしていて、施設に送られる時全力で吉田羊に抗議してくれたの泣けました。
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