Smoky

チャーチル ノルマンディーの決断のSmokyのレビュー・感想・評価

4.3
アカデミー賞を受賞したゲイリー・オールドマン版が首相就任から1940年6月4日の下院演説までの57日間を描いたものなら、本作のブライアン・コックス版はそれからほぼ4年後、ノルマンディ上陸作戦決行日1944年6月6日のラジオ演説までの4日間を描いたもの。

前者が豪華な俳優陣と大味な演出によるハリウッド大作ならば、後者である本作は優れた脚本と俳優の演技力だけで作られたシンプルで重厚な人間ドラマ(実際、金をかけてないのがよく分かる)。どちらが好きかと言われれば迷わず本作。

戦時首相としての4年間の激務による心身消耗と周囲との摩擦、妻との不和、次々と植民地を失い低下する帝国の求心力、入れ替わるように高まる米国のプレゼンス、連合国遠征軍最高司令官の米国人(アイゼンハワー)の下で動かなければならない屈辱、そして自らのキャリアの最大の汚点である「ガリポリ作戦」失敗のトラウマによるノルマンディ上陸作戦への不安と反対。

元軍人として、自らも前戦で指揮を執れば気も紛れるが立場上それは許されない。トップに立つ人間は、決めて批判と責任だけを負うのが仕事。最高司令官として、多くの兵士や国民の命を危険に晒す決断をすることへの重圧と責任、周囲に悪態をつき、酒に逃げ、妻に引っ叩かれ、精神的にボロボロになる。ゲイリー・オールドマン版では勇気ある偉人や英雄として描かれたチャーチルが、本作では老害に片足を突っ込んだ悩める政治家として描かれている。実際、僅かこの1年後、ドイツ軍に勝利した英国は、首相チャーチルをお払い箱にする。

ジョージ6世役のジェームズ・ピュアフォイの抑えた名演と、実物より100倍イケメンのアイゼンハワー役のジョン・スラッテリー(『マッドメン』のロジャー・スターリング!)が素晴らしい。
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