りっく

エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へのりっくのレビュー・感想・評価

4.5
SNSで自己啓発本に書いてありそうなことを毎日アップする中学卒業間近の少女。日常生活の現実と、カメラの前で虚勢を貼る理想との落差を埋めようと、あるいは実際に口に出すことで自分を鼓舞し理想へと近づけようと試みる勇気にまず感服する。

だが、現実は辛い。頑張ろうと前へ進んでもがけばもがくほど、惨めで哀れな思いをしてしまう。相槌や愛想笑いの裏側で彼女がどんなに傷つき、泣き出しそうになるのを隠そうと必死に頑張っている心の中を思うと、観ているこちらの心が掻き毟られる思いになる。

特にクラスメイトの誕生日パーティーの場面はその極みだ。イケイケの同級生たちがプールサイドで遊ぶ最中に、蛍光緑の競泳水着で隠しきれないほどの体型で近寄っていく歩みに観客も同調してしまう。化粧室で、プールの中で、あるいはショッピングモールの証明写真コーナーで、まさに穴があったら入りたい想いで逃げ込む姿は本当に見ていられない。

SNSが普及した中で青春を過ごさなければならない彼女の息の詰まるような姿がある一方で、本作が優れているのは、もはや理解の範疇を超えた娘と、何とか試行錯誤しながらより良い関係性を築こうとする父親の姿も、この上なくリアリティをもった形で描かれている点だ。

そんな2人の想いが交錯する焚き火の場面が本当に素晴らしい。娘が傷つき、あるいは愛情を求めているところに、きちんと寄り添って、励まして、尊重して、抱きしめてあげられる。そんな父親と娘の抱擁が、なんと美しく、真に迫ったものであろうか。出て行った母親に関しての具体的な描写は一切省き、この抱擁に本作の肝を託した作りも大成功だと思う。今後も都度見直したくなる、心の一本になり得る秀作だ。
りっく

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