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HURRY GO ROUNDのdm10foreverのレビュー・感想・評価

HURRY GO ROUND(2018年製作の映画)
4.1
【後悔と怒り】

そうか・・・もう20年も経つんだね・・。
あの時のことは結構鮮明に覚えてるな・・・。
もし僕も東京に住んでたら築地本願寺に行っていたかもしれない。
なんだったんだろうね?よくわからない。
僕自身、もうこの頃はXに対する熱もちょっと冷めかけていて、車で聴くCDもいつの間にか彼女がよく聴いてたミスチルや小室系の音楽なんかに変わっていた。

そんな時に舞い込んできたhideの訃報。

やっぱりショックが大きかったんだと思う。まさに「X全盛期」を共にすごしてきた高校時代の友達に片っ端から連絡して「hideが死んじゃった・・」ってお互いに・・呆然としながら・・。

彼の死後に何曲か楽曲がリリースされ、誰しもがその才能の早すぎる死を悼んだ。

「どうして・・・」

やっぱりhideを語るとなれば当然のように避けては通れないのが「死の真相」。
彼の死を伝える第一報の時点から「自殺(?)」と、さも「死因は自殺である」と断定したかのような見出しが並んだ。各マスコミは挙って彼の「死」をブームのように取扱い、葬儀の際に築地本願寺を取り囲んだ数え切れないファン達を「異様な光景」のように報道した。
そして、そこでは彼の「人となり」や「生き様」が、判で押したようにチープな形で紹介された。
後日、「あれは首の牽引をするために日頃からhideがやっているマッサージの一つ。恐らく誤ってそれが首にかかってしまって窒息してしまった」という事務所側の見解が発表されるも、亡くなってから数日経った後の発表だったこともあって、より混迷に拍車をかけてしまった。
やがて人々の関心は「hideの死の理由」に移ってしまい「マスコミが煽る」→「関係者達が否定する」というおかしな構図が暫く続いた。

―――このドキュメントは「X」のhideではなく、あくまでも一人のアーティストとしてのhideに迫っている。そして勿論その死の真相にも触れていく。ナビゲーターの矢本悠馬(俳優)は凄く軽い。「軽いな~」って口走ってしまうくらいにチャラい。
ほんとに映画の出だしで「っていうかぁ、hideさんが亡くなったっていうニュースを小学生くらいの頃に見たんすけどぉ」みたいなチャラい口調で話し出されると、若干イラッとくる(笑)。
(こっちはお前なんかよりずっとhideのこと大事に思ってたんだぞ!)
でも、浮気していた期間もあったからあまり強いこともいえない・・・。

でも、彼の「それくらい」の距離感が、このドキュメントを成長させていく。

コアでディープなファンがナビゲートしても、きっとその人の主観や思い入れが強すぎて、フラットなドキュメントにはならない可能性もある。だからこそ、「いちファン」というくらいの立ち位置の彼が、当事の映像を見たり関係者の話を聞きながら「hideが生きていた時間」に変な色付けをせずになぞることができる。

実はこのドキュメントを見始めたとき、「何処で止めようかな」という事ばかり考えていた。矢本悠馬の振る舞いに若干の苛立ちを感じたというのもあったかもしれないけど、それ以上に「これ以上彼の死を穿り返す必要ってあるのか?」という気持ちがどこかにあって。

でも映像の中で生き生きと楽しそうに動き回るhideを見ているうちに、そんな事はどうでもよくなってじっと画面を凝視していた。

やがて、hideが亡くなる直前まで一緒にいたという方々が、それこそ直前まで飲んでいたバーに集まって当時の思い出話を始め、ついには「死」を知らされた瞬間のことを語りだす。
20年間ずっと吐き出せなかった思いが堰を切ったように溢れ出し、皆、涙を流す。
ある者は「あの時自分が・・・」と自分の行動に後悔し、ある者は「hide、何やってんだよ・・・」と怒りをぶつける。
しかし、みんなhideを愛していた。愛していたからこそやるせない気持ちをずっと抱えたまま誰にも言えずに20年間もの間、人知れず「後悔」や「怒り」など様々な思いを胸の中にしまっていた。
とても静かなシーンだったけど、とても熱い何かを感じましたね。

で、関係者の方々が口を揃えて言うのは「彼は自殺なんかする様な奴じゃない」ということ。
それは単に「近しい人の名誉を守りたい」とかそういう事ではなく、本当に自殺するような理由が見当たらないのだ。

死後発表された「HURRY GO ROUND」の歌詞が死や別れを連想させているのではないかという説から「hide自殺説」が実しやかに言われるようになったのだが、これについても、hideと交流のあった人のインタビューで「hideは自分の思いを歌に込めるような作り方というよりは、聴いてくれるみんなの為にということを考えながらメッセージを込めて作るタイプだった。だからこれが自殺を暗示するとは僕は思えない」と否定していた。

矢本君の立ち振る舞いもこの頃にはかなりシリアスになっていて、質問の内容も僕たちが聞きたいことを代弁してくれるようになってきている。

そして辿り着く「hideの直筆ノート」。
ここには生前彼が書き溜めた歌詞などがぎっしり詰まっていた。そしてそこに書かれていたのは完成版として世に放たれた「HURRY GO ROUND」の構成前バージョンの歌詞。
つまり、最初に思いついたことを書き連ねたありのままの言葉。
その若干のニュアンスの違いこそが彼からのメッセージであり、決して自死をイメージした人間が書いたようなものではないことがわかる。

誤解を恐れずに言う。
hideの去り際は実に彼らしいと思う。自殺かどうかなんて騒いでるのは彼を知らない人間たちで、彼を心から愛した人たちは彼がそんなことはしないと知っているし、だからこそ20年経った今でも愛され続けている。

真実という意味での結論は永遠に出ないかもしれないけど、実は「そんなことどうだっていいじゃん」ってhide自身が言ってそう。

そして「また春に会いましょう」と。
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